五臓の心の病証と心気虚 心血虚 心陰虚 心火など病態の解説

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 今回は臓腑弁証編として、五臓の心の病証と病態、症状についてお話ししていきます。

臓腑弁証・概要

 東洋医学において『蔵象』『経絡』の認識は重要かつ不可欠なものです。臓腑の機能失調外邪・内傷・飲食労倦などの病因、気血津液の過不足やその運行の阻害陰陽の失調などによって引き起こされます。

またその失調は所属している経脈の気血の状態に影響を与え、その経脈上に感覚異常や機能異常を生じさせます。

 それらの病的な現象に対して、八綱弁証『表裏』『虚実』『寒熱』から人体の状態を捉えようとするもの、臓腑弁証『蔵象(臓器)』の異常によって人体の状態を捉えようとするもの、経絡弁証『経脈・経絡』の異常から人体の状態を捉えようとするものなのです。

 

『心』の病証

1.『心』の生理機能のポイント

 心の病証について学ぶ前に、まずは簡単に心の生理機能と五行従属をおさらいしましょう。

生理機能

『血脈を主る』

 →血を推動し、脈中を運行させる

『神志を主る』

 →精神活動を主る

 

五行従属

五主→『血脈』

五華→『顔(面色)』

五竅→『舌』

五液→『汗』

五志→『喜』

 

2.『心』の病証

 心の『血脈を主る』『神志を主る』という2つの生理機能は、心陽と心気・心陰と心血の作用に依存しています。心陽心気血脈の温煦と血の循環を推動し、精神・意識・思惟活動を正常に保っています。

 一方で心陰と心血は血脈を充たし、心を滋養して心陽が亢進しないように制御し、また心神を蔵して安定させています。従って心の陰陽気血が失調すると、心血の循環と精神情志に変化が出やすくなります。

血脈を主る作用が失調すると・・・?

 心気が不足することで、以下の症状が出現

 推動無力により→心悸(動悸)・顔面淡白・脈細弱

 血行障害により→顔唇紫青色・胸痛・脈細渋

 

心志を主る作用が失調すると・・・?

 精神活動に支障が出て、神志に異常が起こる

 →不眠・多夢・健忘・譫語(うわごと)

 

部位ごとに出る症状

 胸→心悸・心煩・心痛 

 顔→色や光沢の異常 

 舌→芒刺舌・舌が回らないことによる言語異常・味覚の異常

  

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心の病証の診察ポイント(病位情報)

1.心悸の有無          2.胸痛の有無

3.夢を見るかどうか       4.舌について

5.胸悶感の有無         6.上肢内側の痛み・痺れの有無(特に左側に関連痛)

7.精神状態について       8.顔色の観察

9.健忘(物忘れ)の有無      10.汗について

  

『心』の各種病態

心気虚・心陽虚

 心気虚は、先天の精の不足や情動の失調、慢性病、加齢に伴う臓器機能そのものの減退などによって引き起こされる、心気の不足による虚弱症状のことです。

 心陽虚は、長期にわたる心気虚や突然の重病による陽の損傷などが原因で、心の陽気が不足して引き起こされます。 

心気虚証(八綱:裏虚証)

 →心の機能が減退した病証。

 主な症状として気虚の倦怠・無力感・息切れと、心の心悸(動悸)がある。また、脈は弱(細・沈・無力の状態)

 心悸は推動作用が低下して血を送り出せないために、血を送り出そうとして起こると考える

 

心陽虚証(八綱:裏虚寒証)

 →心陽不足で温煦作用が低下し、虚寒現象が現れる病証。

 主な症状には気虚の症状のほか、冷えの症状として寒がり・四肢の冷えが加わる

 心に関係する症状としては、心悸と胸痛が現れる。胸痛はこの場合、冷えによる痛みと考える

 

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気虚と陽虚の鑑別

鑑別のポイントは、『寒』があるかどうか。

気虚が進行し、温煦作用低下が著しくなったところに寒の所見が出現したものが陽虚であると考えるため

 

心気虚証と心陽虚証の鑑別

・共通点

 病の位置(以後、病位)→『心』

 気虚による症状→『息切れ・倦怠・無力感』

 

・相違点

 気虚→倦怠・無力感が著明に出現 

 陽虚→寒がり・四肢の冷えといった虚寒の症状が出現

 

心血虚・心陰虚

 これらは、思慮過度(考えすぎ)による陰血の消耗や大量出血による心血の減少、飲食の不足、熱病による陰の損傷など、多くの原因によって引き起こされます。

心血虚証(八綱:裏虚証)

 →血不足により、心が血の栄養を受けられなくなり起こる病証。

 主な症状として血虚の顔色失栄・めまい・舌質淡・脈細と、心の心悸・不眠・健忘がある

 

心陰虚証(八綱:裏虚熱証)

 →心の陰液不足により心神失養となり、神志を主る機能が失調して起こる病証。また、陽を抑制できず虚熱内生が起こる。

 主な症状としては陰虚の五心煩熱・盗汗・舌質紅・脈細数と、心の心悸・不眠・健忘がある

 

血虚と陰虚の鑑別

鑑別ポイントは『熱』があるかどうか。

陰虚では血不足による失養のほか、陽を抑制できずに虚熱内生が現れる

 

心血虚証と心陰虚証の鑑別

・共通点

 病位→『心』

 心の滋養不足による心神失養(心悸・不眠・多夢など)

 脈:細

 

・相違点

 血虚→顔面失栄・舌質淡

 陰虚→頬部紅潮・潮熱・舌質紅・脈数

 →これらはいずれも陰虚による虚熱の所見

 

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心火の亢進

 心火の亢進は、五志の異常や六淫の邪の熱化、辛いものの偏食、酒やタバコなどによって引き起こされます。

心火亢進証(八綱:裏実熱証)

 →体内で実熱が強くなり、心に影響し、神志に異常が起こる病証。

 主な症状として実熱の口乾・身熱・顔面紅潮・舌質紅・舌苔黄・脈数有力と、心の心悸・不眠・胸部煩熱・尿黄(赤)がある。いずれも、体内に熱がある場合に見られやすい所見

 

心火亢進証と肝火上炎証の鑑別

・共通点

 いずれも実熱による症状や所見を伴う

 

・相違点

 心の場合→心と関連する神志・胸部の症状が出現

 肝の場合→肝と関連する頭項部・目・脇部の症状、五志の『怒』と関連した症状出現

※肝火上炎証については、次回以降に出てきます

 

心脈阻滞証(心血の血オ)

 心脈の阻滞は、心気虚や心陽虚で血を推動したり温めたりできなくなって、血行障害が起こることで引き起こされます。

心脈阻滞証(八綱:裏実証)

 →心脈の流れが悪くなり起こる病態。

主な症状として血オの刺痛・固定痛・舌質紫暗・脈渋と、心の心悸・胸部の刺痛・息の詰まりがある

胸痛はこの場合、血オによって流れが悪くなり、オ血(病理産物)が生じるためと考える

 

おつかれさまでした

 以上で心の病証についての解説は終了とさせていただきます。

 次回も引き続き、五臓の病態について解説していきます。

 それではまた次回、お会いしましょう!

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