今回は東洋医学の始まりから陰陽五行論の成り立ちと、最後に五行の『木・火・土・金・水』の性質についてそれぞれお話ししていきます。
そもそも東洋医学って?
東洋医学とは現在の中国で発祥し、風土(北半球や四季など)に合わせて発生・発展し確立されてきた医学です。ですので中国を中心とした(日本を含む)、アジア圏で発祥・発展してきた医療全体のことを指しています。
なお日本では、江戸時代にオランダを通じて西洋医学が伝来したため、西洋医学を『蘭方』と呼び、従来より中国から伝えられた医学を『漢方』と呼んで区別していました
この東洋医学を生み出した思想は、数万年前にまで遡ります。
農耕を主な生活の手段としてきた中国大陸の人たちにとって、四季の変化が正常に運行するかはとても関心の寄せられるところでした。
これは言い換えるならば、年間を通じて農耕の成果を左右する太陽や雨、風などの恵みを享受することができるかということです。
そこで古代の中国の人々は四季の季節的な特徴を『四気』と呼び、それぞれ『生(春)・長(夏)・収(秋)・蔵(冬)』とされ、あらゆる生命活動がこの影響を受けると考えました。
東洋医学成立前の、中国の医術
東洋医学が成立する以前の、いわば原始時代の医術は、中国も他の文化圏と同様に本能的な医術を使用していたとみられています。
それは『傷口を舐める』『痛いところをさする・撫でる(手当てをする)』『薬となる食物を摂取する』などです。
しかし、中国の医術が他の文化圏と異なったのは、痛むところに石を用いて治療をしたことでした。
そしてこれが後に、『気の思想』を背景として『経絡』を発見し、『経絡説』を発明する原動力となっていきます。
その後、部族社会を形成すると、シャーマンなどの呪術師による呪術的な医療の『巫』が、春秋戦国時代になっても、祭祀や祈祷、祝言などによって病因を取り除こうと盛んに行われました。
東洋医学が成立した頃の、各地の治療法の起源について
1.東方
海岸沿いで魚と塩分をよく摂る傾向があったことで血圧が上昇し、その結果として身体に『熱』を帯びることが多かった。
そのため肌に化膿(おでき)ができやすく、『砭石(へんせき)』という切開を主とした治療を施すこととなった。
この治療法は現代の鍼治療でいうところの小児鍼などの皮膚表面への摩擦刺激を中心とした治療法に繋がっています。
2.西方
砂漠や丘陵地帯で獣肉をよく摂る傾向があったことで肥満が多くなり、内臓疾患にも罹りやすかった。
そのため『生薬』を用いた内服薬での治療を施すこととなった。
これは現代で言うところの『湯液』治療に繋がっています。
3.南方
高温多湿の環境により、さっぱりとした味が好まれたためか、果実や酸味といったものをよく摂る傾向にあった。
するとシビレや痙攣といった症状が出やすくなったため、『鍼』による治療を施して身体機能の改善を図ることとなった。
4.北方
高原で寒い環境のため、何かと体が冷えやすい環境にあり、そのため『灸』を用いて体を温める治療が施されるようになった。
5.中央
食事に偏りは少ないが肉体労働をすることがなく、頭脳労働をする環境だったので運動不足で血流が悪くなってしまい、冷えやのぼせといった症状が出た。
そのため『導引(どういん)』・『安蹻(あんきょう)』といった揉みほぐす治療が主となった。
これは現代でいうところのマッサージやあん摩などの治療に繋がっています。
『気』って?
東洋医学における重要な概念の1つである『気』。では一体、これはどういうものなのかをお答えします。
春秋時代の末期から、中国では厳しい現実を生き抜くための方法論として、気の思想というものが確立されてきました。
また、それとともに『陰陽五行論』という『万物の起源は気である』という理論を基礎として、宇宙の全てを認識し、変化を説明するといった認識論も生まれました。
つまり『気』とは、この宇宙の全てにおける始まりの物質である、ということです。
こう言われると何かの宗教のように聞こえるかもしれませんが、決してそんなことはありませんのでご安心ください。
この認識の大元になっているのは『天人合一思想』というもので、これは人体の形と機能が、天地自然と相応しているとする思想のこと。
より詳しく説明すると、人は生きていくために必要な食物も空気もすべて自然界に頼っていますが、これらも元を正せば全て天と地の産物。宇宙を作った気から作られていると言えます。
つまり人間の生命活動の中心といえるものは、天と地からなる大自然(大宇宙)にあるということができると考えたのです。
これが、『気』が宇宙の始まりの物質ということを証明する考え方ですね。なかなか壮大なお話でしょう?
『陰陽』って?
陰陽とは元々、日向か日陰かというところから発生した考え方です。
生活の中心が農業だった古代中国の人々にとって、日当たりの良い土地と水の多い土地もまた、大いに関心が寄せられるところでした。日向は暖かいから陽、日陰は涼しいから陰、といったような考えです。
また、陰と陽の代わりに雄と雌が用いられるようにもなりました。これは牧畜生活の経験の中で、2つの対立するもの同士が合して、新しいもの(この場合は生命)を生み出すところを見て発想したのでしょう。
同じように、剛と柔を陰と陽の代わりとして用いることもありました。これは雄の動物の性質や、その毛が硬いこと、背中の陽の当たる皮膚が硬いことなどから類推したものだと考えられます。
しかしこれらも、後に全て、陰と陽の概念に取り込まれていくことになりました。
古代の中国の人々は、この世に現れる全ての現象が、『正』と『反』の2つの面を持つと考えました。そしてこれらが持つ相互関係を、自然界の全ての現象を理解する上での基本的な観念としたのです。
このように当時の人々は、この世界は『気』によって作られていると認識し、世界そのものが陰と陽の二気の対立と統一によって成り立っているとしました。
『陰』の特徴→落ち着き・静か・降下・寒冷・暗い・物質的など。
『陽』の特徴→活動的・騒がしい・上昇・温熱・明るい・機能的など。
ただし陰陽の属性は絶対ではなく、あくまでも相対的なものであり、ある一定条件においては逆の性質を示すものとなり、これを『転化』と言います。
また、陰陽論を用いると物事を無限に分けていくことも可能で、これを『可分』と言います。
例えば、昼は陽で夜は陰ですが、午前と午後に分ければ、午前は陽中の陽、午後は陽中の陰となり、夜中でいえば前半は陰中の陰で、後半は陰中の陽。このように見ることで、宇宙の一切を全て陰と陽に分けていくことができるのです。
当然のことながら、人体においてもこの『陰陽』は重要で、陰陽の対立や統一のバランスが崩れてくると、身体に様々な不調や変調をきたすことになります。
『陰陽五行論』って?
五行の『五』とは自然界の物事を『木・火・土・金・水』の5種類の物質に分類していることを意味し、『行』はそれらの相互関係、つまり運動と変化を意味しています。
この思想の起源は古く、殷時代の宗教的な観念にまで遡ります。
現代でも名の知られた、風水などにも出てくる『青龍』『朱雀』『白虎』『玄武』といった四神も、元は『殷』の時代の甲骨文に見られた神の名だったとする説があります。
広大な中国の風土を理解するため、人々は黄河を中心として、四方の地域の土の色や生産物、気候などをこの四神や色、先ほど挙げた木・火・土・金・水などに結びつけました。
そしてこのような考え方から生まれたものが、すなわち五行とみられています。
ところで日本では、鍼灸で用いるこれらの理論を、非科学的だとして退けようとする傾向があります。
現代科学は世界の成り立ちを、原子や分子から解明し、あたかも完成された自然観を形成しているかのように思えます。
しかし、現代科学の自然観や人間、病気に関しても、世界はまだ未知なるものを数多く残していると考えてみると、古代の人々の方が、この複雑な世界をありのままに捉え、健康面についても、現代を生きる私たちよりも多くのことを考え、実践していたのではないでしょうか。
私はこのような考え方がかなり好きです。まぁ、中二病的な思考が入っているのも原因であるとは思いますが。
それ以上に東洋のこういった考えが面白いと思えるのは、色んなことを経験や想像から結び付けられることだと思います。
五行で表されるこれら基本の物質は、自然界で絶対に欠かすことのできない物質として捉えられていて、人間が生活する上で非常に重要な物です。また、それぞれに特性を持っており、決して離れることはできません。
古代中国の人々は、この特性と関係性を応用して自然界の全ての物事を分類し、理解しようとしました。
以下は基本となる5種類の物質の特性です。
『木』
1.曲直
『曲』は湾曲、『直』はまっすぐの意味。
樹木はまっすぐに伸びながらも、色々と湾曲します。
また、上から押さえつけられることを嫌がって、上や横に伸びたがります。
2.五行の中では最も容易に動きやすい
これは、樹木は少しの風でもすぐに揺れ動くことからきています。
またこの動きは小さな振動を意味してもいます。このことから人体では四肢のビクビクとした痙攣を表すこともあります。
このような特徴から『肝』の症状がみられるときは、柔らかく少しずつなだめるような治療を施します。
人体では『肝』の臓と関係が深いとされていますが、これは肝臓の血管の走りかたが樹木に似ていることや、五臓の中で最も青いことからだと言われています。
性格で言うと、すぐに青くなって怒鳴る人とか、言いなりになることを嫌う反骨心の強い人、中高生など思春期にありがちな、世間を達観したような気になってしまう『斜に構える』人、といったようなものでしょうか。
また、『胆』の腑も『木』に属します。これは胆の機能や、肝臓との位置関係を考えれば当然と言えますね。
『火』
1.炎上
『炎』は旺盛、『上』は向上の意味で、自然界の中で旺盛で上に上がっていくもの全てが『火』に属すると考えられています。
こうした特徴から、人間においては怒りやすい人であったり、体が熱い現象を指します。
2.温熱
『火』が存在すれば人は熱を感じます。自然界では南方・夏季が属しています。
3.紅亮
『紅』は火、『亮』は光っていることを意味します。
このことから患者さんの皮膚にできものが出来て紅く光っていれば『火がある』と言います。
4.化物
物質を変化させるという意味で、水を飲んでもすぐに口が乾くとか、消化する力があまりに強いとき(食べてもすぐに空腹感が出るなど)は体の中に『火がある』と言います。
人体では『心』と『小腸』の臓腑が『火』に属しています。
ところで、松岡修造さんは周囲にまで熱の影響を及ぼすみたいですから、この『火』が殊更に強そうですね笑
『土』
1.載物
物を載せているという意味で、陰暦の長夏(日本では梅雨)における6月は、万物が生長する最も盛んな時期。
また木火土金水は全て土の上に存在し、五行の中では最も重要な基礎となるものでもあるのです。
2.生化
『生』は生長、『化』は変化を意味します。
人も動物ですので、食物を食べないと体を生き永らえさせられません。
またこの変化は、人体の『脾』の臓や『胃』の腑の運動と捉えて、これらの臓腑を『土』に属していると考えています。
ですので胃腸の調子が悪い患者さんにはこれらの経絡のツボを用いることが多いです。
『金』
1.発声
金属は音がしますね。自然界で発声や発音が明らかなものについては『金』に属すると考えられています。
人体においては声や咳などの音が出る臓腑を『肺』と捉えました。そのため『肺』の臓は『金』に属しています。
2.粛殺
金属が鋭利な刃物と捉えられたことから、命を奪っていくものと考えられました。
例えば四季の『秋』は生物の命を次々と奪っていく季節ということで『金』に属しています。
『大腸』の腑も『金』に属します。
『水』
1.寒涼
自然界において水は寒涼なものであり、寒冷な現象の全てが『水』に属すると考えられています。
2.下行
水は下の方に流れていくことから、一切の液状のものは下の方へ流れていくという特性があります。
3.滋潤
水はものを潤す性質を持ちます。自然界でも人体でも、湿潤させるのは全て『水』に属します。
4.閉臓
水はあらゆるものを取り込んで溜め込むという性質があります。
例えば『冬』は『水』に属すると考えますが、この時期、植物は成長しません。
しかし地中で精力を温存し、春に向けてエネルギーを貯めていると捉えられることから、これは『水』の閉臓の性質によるためなのだと考えることができます。
人体では『腎』と『膀胱』の臓腑が『水』に属しています。
これは、腎は精を貯蔵していて、膀胱は尿を貯めるからと考えられます。
おつかれさまでした
東洋医学の成り立ちについて、少しでも理解の助けになることができていれば幸いです。
聞きなれない話ばかりで少し難しいと思いますが、この辺の知識が頭に入ると、後々より一層面白くなると思いますよ。
それではまた次回、お会いしましょう!
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