今回は東洋医学独特の概念である気について、その種類や機能、病変を血や津液と合わせて解説していきます。
『気』『血(けつ)』『津液(しんえき)』って?
読者の皆さんももしかすると、どこかで聞いたことのあるかもしれないこれらのキーワード。
これらの物質は、東洋医学においては生命活動を維持するための基本物質であると捉えています。
性質および生理機能はそれぞれ違いますが、食物から栄養分を取って変化生成したものであり、体を構成するものです。
『気』
気の概念は、時に『物質』、時に『性質』、時に『機能』、時に『気候』などを意味しますが、ここでは主に『物質』としての気について述べていきます。
『物質』の気とは、人体の構成と生命活動を維持する最も重要な物質のことで、肉眼で確認することはできませんが、人体の働きによって観察することができます。
これは例えば、電化製品に流れている電気のようなもののことで、その存在は実際に電化製品が動くことで確認・認識することができるのと同じことです。
気の作られ方(生成)と、人体を流れる気の種類
気の生成は、初めから自身が持っている『先天の精』を使用するところから始まり、それを食物などから摂取する『後天の精』で補充し、呼吸による空気(天の清気)を取り入れて行われます。
全身を巡る気は、生成場所・所属部位・あらわれる機能などの違いで『営気』『衛気』『宗気』『元気』と名付けられていて、これらの物質の気によって臓腑や経絡の機能を維持しています。
『営気』
営気は食物の栄養の消化吸収によって得られる、血と一緒に脈中を流れる栄養豊富な気です。
機能は全身に栄養を行き渡らせることと、血を作り出すことです。
『衛気』
営気と同様に食物の栄養の消化吸収で得られ、肺から脈の外へと送り出されます。脈管(血管など)に拘束されることがないので、その巡る速度は速くて滑らかです。
その運行は、内側では臓腑、外側では皮膚や筋腱、臓腑の隙間などに行き渡ります。
機能は体を保護したり、体の内外を問わず組織を温め体温を一定に保ち、汗の排出のコントロールにも関わっています。
『宗気』
宗気は胸中(心肺)に蓄えられ、全身の気の運行や散布の出発点となる気です。消化吸収によって得られた食物の栄養分と肺が吸入した空気から生成されます。推し進める力が強い気と考えてください。
機能は呼吸や声音の維持、気血の運行を行うことです。
『元気』
『原気』や『真気』とも言われ、人体で最も重要な気であり、生命活動の原動力となる気です。
元気は腎の中の精気である『腎精』が変化したもので、これは両親から受け継いだ『先天の精』が元となっていて、それを消化吸収した栄養素の『後天の精』が補充して培われています。
従って元気は、消化吸収機能と密接に関わっています。
機能は生長発育や生理機能のコントロールです。
元気が十分にあれば、人体の各組織や器官は活力が旺盛となって体が丈夫になり、精神状態も良好になります。
気の総合機能の種類
これらの『物質的な気』は、臓腑や組織などの機能である『臓腑の気』を維持し、その機能を維持することでまた、これらの気は生産されます。
この『物質的な気』と『臓腑機能的な気』の総合機能をまとめると次のようになります。
推動作用
宗気・元気・精気が主となって機能する作用で、人体の生長・発育や各臓腑と経絡などの生理機能を推し進めます。また、血などを全身に巡るように推し進めています。
不足すると・・・?
→発育の遅れや血行停滞が起こります
温煦(ク)作用
心・腎・脾の気が主となって機能する作用で、体温維持や臓腑・経絡などの生理活動の維持に関与します。
また、一定の温度がないと正常な生理活動を行うことができなくなります。
不足すると・・・?
→四肢の冷え、寒さを感じやすいといった症状が出ます
防御作用
衛気が主となって機能する作用で、皮膚を保護して外邪(外部からのカゼなどの病気の要因)の侵入を防ぐ抵抗力です。また、侵入した外邪に抵抗して排除する役割も持ちます。
西洋医学では白血球などがこれに当たります。
不足すると・・・?
→カゼをひきやすくなったり病気が長期化したりします
固摂作用
衛気・脾の気・精気が主となって機能する作用で、液状の物質が通路を外れないようにします。
例えば『血が血脈(血管)外に漏れないようにする』とか『汗や尿が排泄過多にならないようにする』といった働きを統括しています
不足すると・・・?
→出血しやすくなったり汗をかきやすくなったりします
気化作用
各臓腑の気が主となって機能する作用で、新陳代謝や飲食物の消化吸収、汗や尿の排泄、便の生成などの変化を総括して『気化』と呼びます
不足すると・・・?
→尿が少なくなったりむくんだりします
『血』
血は食物の栄養から作られる脈管中の赤い液体で、営気とともに流れて四肢や臓腑・諸器官を滋養し、その働きを支えています。
血の機能
1.全身を滋養する
血は営気とともに全身を循環していて、全身の臓腑組織の生理活動を維持しています。
血が持つ栄養と潤す作用は顔を血色よくしたり、筋肉を豊満で逞しくしたり、皮膚や毛髪を艶やかにしたり、知覚や運動を鋭敏にしたりします。
2.精神活動の基本物質
血は精神活動と密接に関係していて、供給が充実することで初めて、精神活動が正常に行われます。精神がしっかりとしていれば、頭脳明晰・知覚は鋭敏で、身体も思ったように動かせます。
しかしなんらかの原因で供給が不足すると、元気が無くなったり、健忘・多夢・不眠・イライラ・ぼんやりする・心臓の動悸・うわごとや昏睡など意識に関する様々な症状が現れることになります。
気と血の関係
『気が巡れば血も巡る』
これはどういうことかと言うと、気と血というのは相互に作用しあう存在ということです。
気の『気化』作用によって血は生成され、『推動』作用によって全身へ運ばれます。
また、大切な血を脈管外へと漏らさないよう『固摂』作用も働いています。
そうして血が巡ることで全身の組織は活動をすることができ、それが再び『気』を生み出すことへと繋がっていくのです。
血と五臓の関係
血は五臓の働きで、それぞれ以下のように調整されています。
『心』→血の循環と生成に関わっています
『肺』→心とともに循環に関係し、血を生成します
『脾』→血の原料を食べ物から吸収します
『肝』→作られた血を貯めて血流量をコントロールします
『腎』→血の原料の1つの『精』を貯めておきます
血の病変
不足(血虚)すると・・・?
全身ではめまいや顔面蒼白、皮膚の乾燥が起こり、五臓では『心』では動悸や不眠、『肝』では目のかすみや乾燥、手足のしびれや震えが起こります
血行障害(血オ)が起きると・・・?
痛みの症状ではいつも同じ場所で刺すような痛みや、歯茎や鼻血など全身の各部からの出血がしやすくなり、内出血も多くなってきます
『津液』
津液は体内にある『血』以外のあらゆる正常な水分のことで、五液の『涙』『汗』『涎』『洟』『唾』などがあります。ちなみに五液とは、五行の『木・火・土・金・水』に対応する体の液体を指します。
飲食物を消化吸収した栄養素から生成され、腑の『三焦』を通路として臓の肺・脾・腎などの働きで全身を流れて諸器官や関節・表皮などをくまなく滋養します。また、津液は血の重要な原料でもあります。
汗や涙などの薄くてサラサラしているものを『津』、胃液や関節液などネバネバしているものを『液』と呼びますが、厳密には明確な区別は難しいため、正常な水分のことを『津液』と総称しています。
津液の機能
1.全身の滋潤・滋養作用
津液には体内全ての器官組織細胞を潤し、保護・栄養する作用があります。
また津液は『衛気』によって全身に運ばれて汗として排出されるなど、気の防御作用にも関与していると考えられています。
2.血液の調整作用
津液は血と同様に食物の栄養から作られ相互に作用しあって全身の体液の調節を行います。
津液は血の重要な原料でもあり、血脈に注がれて血を栄養し、サラサラにして流れやすくさせ、血の量を調節しています。
気と津液の関係
血と同じく、津液も気と関係があり、気によって代謝されています。
『気化』作用で津液を生成し、『推動』作用によって津液を流し、『固摂』作用によって余分に津液が漏れないようにしています。
津液と五臓の関係
津液は五臓によっても代謝されています。
『脾』→津液を食べ物から作ります
『肺』→流れを調節して全身に運びます
『腎』→尿として膀胱に貯めます
『肝』→津液の流れを肺とともに助けています
『心』→五液の汗の代謝に関係しています
津液の所在と五臓との関係
津液は五臓によって変化生成されます。これが先ほど述べた『五液』となります。
肝→『涙』 いわゆる涙
心→『汗』 いわゆる汗
脾→『涎』 いわゆるヨダレだが、こちらは水っぽいサラッとした感じがする
肺→『洟』 いわゆる鼻水
腎→『唾』 いわゆるヨダレだが、こちらは少しねっとりした感じがする
なお五液は、五臓の病の時にも異常が現れます。
津液の病変
不足すると・・・?
全身では皮膚の乾燥などが起こり、五臓ではそれぞれ目の乾きや汗の異常、鼻や口が乾くなどの異常が出ます
代謝障害など・・・。
全身ではむくみや尿・便の異常が現れ、他にも咳が出やすくなったり『胸悶(胸が苦しい)』といった症状が現れることがあります
『神(しん)』って?
気血津液に関しては多少ご理解いただけたかと思います。最後にもう1つ、東洋医学における生命活動の大事な要素を説明しておきます。
『神』とは生命活動を支配・統制している気で、五臓の中に存在しています。
神の分類
・『神』
『心』に存在し、感情をコントロールして生体のあらゆる活動を主宰していて、心拍や呼吸、運動・知覚・精神活動を正常に行わせるものです。
・『魂』
『肝』に存在し、無意識・本能的活動を支配しています。
『心』と密接な関係を持ち、陽性で浮きやすい性質を持っています。
『神』による支配が過剰になると空想や幻覚が現れ、『魂』が衰退すると自信喪失や人格崩壊に繋がると言われています。
・『魄』
『肺』に存在し無意識・本能的行動を支配しています。
習慣化した日常生活や集中力を主り、陰性で沈みやすい性質を持ちます。
『神』による支配が過剰になると注意力散漫や記憶力低下の症状が現れ、『魄』が傷つくと勝手な振る舞いや動作言語の忘れや間違いを引き起こすと言われています。
・『意』
『脾』に存在し、意識的・思考的活動を支配していて、思う・覚えるなどの単純な思考を主っています。
『神』による支配が過剰になると落ち込みやすくなり、『意』が傷つくと思いに苦しむようになると言われています。
・『志』
『腎』に存在し、意識的・思考的活動を支配していて、『こころざし』であり、目的を持ったり思いを継続させることを主っています。
『神』による支配が過剰になると継続力がなくなり、『志』が傷つくと記憶の混濁や物忘れを引き起こすと言われています。
では何故、これらが支配されたり傷ついてしまうのか?
それは、人間なら誰しもが持つ感情によるものなのです。
人間には『七情』というものがあり、『喜び』『怒り』『思い』『憂い』『悲しみ』『恐れ(恐怖)』『驚き』があります。これらは通常であれば一定の範囲内に収まっています。
ですがなんらかの理由で行き過ぎてしまうと『心』が乱れ、感情をコントロールする『神』が影響を受けてしまいます。すると影響された五臓が司る『神』によって、上記のような症状が出てしまうのです。
おつかれさまでした
東洋医学の基礎中の基礎のお話はここまでとしておきます。
気血津液と『神』について少しでも理解いただけましたら幸いです。
次回からはこれまで度々登場した『五臓』と、それに強く関連する『六腑』についてお話ししていこうと思います。
それではまた次回、お会いしましょう!
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