六淫外邪の風 暑 湿 燥 寒 火が持つ性質と外感内傷論と病因論

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 今回は東洋医学で病因を考えていく上で基礎基本となる理論と、疾病を引き起こす原因とされる六淫外邪について解説していきます。

東洋医学の疾病観・病因論概要

 東洋医学では疾病について、天候の変化・過度の精神感動・飲食の不適・過労などの内界・外界の様々な変化が要因となり、生体内に陰陽・気血・臓腑・経絡などの不調をが引き起こされることによって病的状態を表すものと考えます。

 特に鍼灸医学では、全ての病変を臓腑経絡系の変動として捉え、経脈内の気血を整えることによって疾病の治癒をはかります。(生体の持つ自然治癒力の向上)

 

 鍼灸医学では病因論は陰陽論に基づいており、その内容は次のようになります。

病因

・病が陽より生じるもの(外邪)

 →陽性の外邪は上部より襲う(風・暑)

 →陰性の外邪は下部より襲う(湿・寒)

 

・病が陰より生じるもの  

 →飲食不摂生などで五臓六腑をそこな

 →情動の変化は気をそこない、五臓をいため

  →その他(房事・労倦・外傷・生活・風土など)

 

 その後、病因は大きく3つに分ける考えが一般的となりました。

『病因』

・『外因(六淫)』

  →『風・暑・湿・燥・寒・火』

 

・『内因(七情)』

  →『怒・喜・思・憂・恐・悲・驚

 

・『不内外因』

  →飲食労倦・房事・外傷など

 

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 またこれらは、外感と内傷に分ける考え方もあります。

『外感』

・邪は外から入り、表から裏に入る

・疾病の多くは有余(実)である

・治療は外を治し、病邪を取り除く

・六淫が原因であることが多い

 

『内傷』

・臓腑が先に損傷し、病は内から起こる

・疾病の多くは不足(虚)である

・治療は内を整えて臓腑を調和させ、正気を養う

・七情や飲食・労倦などが原因のことが多い

 

『外因(六淫)』って?

 六淫とは『風・暑・湿・燥・寒・火』の6種類の外感病邪の総称です。

 元々は自然界の6種の異なった気候変化を表すもので、『六気』と呼ばれています。これらには万物を育む働きがあり、人体に対しては無害です。

しかし六気に異常(過剰・不足・時期に反して出現など)が起こり、さらに人体の適応力を超えた時などには発病因子となって疾病を生じさせます。

六淫にはいくつかの特徴があります。

 

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1.『季節・時間・居住地・環境』と関係がある

(例) 春は風がよく吹く→風病が多い

  夏は暑くなる→暑病が多い

  長夏は湿が盛ん→湿病が多い

  秋は乾燥しやすい→燥病が多い

  冬は寒い→寒病が多い

  長く湿地にいる→湿病になりやすい など

 

2.六淫の邪は単独で人体を侵すこともあれば、複数の時もある

(例) 『風寒』『風熱』『湿熱』『風寒湿』 など

 

3.六淫の邪は疾病の進行過程で互いに影響し合い、一定条件では互いに転化する

(例) 寒邪が熱化、暑湿が燥や火に転化 など

 

4.六淫による感邪ルートの多くは皮毛あるいは口鼻からの侵入である。皮毛と口鼻から同時に邪を受けることもある

 では次から、それぞれの性質を見ていきましょう。

 

『風』

 『風』は季節では『春』に配当されますが、四季を通して現れます。風はいつでも吹いていますよね。

 五行では『木』、五臓では『肝』と関係が深いです。

 外感病の中ではこの『風』によるものが最も多いとされています。

 『風邪』は皮毛から体内に侵入することが多く、営衛(営気・衛気)を不通にさせて病証を発生させます。

 

『風邪』の性質

1.風は『陽』の邪気で、上部を侵しやすい

 風は陽の邪気で上に昇りやすい性質を持ちます。

 ですので人体の上部に症状が現れることが多く、頭痛・鼻づまり・咽喉痛・顔面浮腫などの症状が出ます。

 

2.風は衛気を侵す

 風邪が人体に侵入して衛気不固となると、皮膚ソウ理が開はいし、発熱・悪寒・汗が出るなどの症状が出ます。

 

3.風邪による病は変化しやすい(遊走性)

 風は動きやすく変化しやすいという性質があり、風邪による病は症状や部位が一定でなく動きやすい特徴があります。

 また、時間の経過によって症状が現れたり隠れたりといったことや、風邪による発病は経過が急で変化が速いという特徴を持ちます。

 動きやすいという特徴から、風邪の病には肢体の異常運動や強直がよく現れるとされ、痙攣や顔面麻痺などがこれにあたります。

強直→関節包や靭帯が弾性を失って短縮することで起こる拘縮の、より症状が悪化したもの。基本的に関節を動かせなくなる

 

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4.風は百病の長

 風邪は六淫の中で主要な発病因子であり、その他の外邪と一緒に人体を侵すことが多く(風寒・風熱・風燥・風湿など)、また、風寒湿の三邪がともに襲うときは、『痺』という病を引き起こします。

・『行痺(風痺)』→痛みが遊走する

・『痛痺(寒痺)』→激しい痛み

・『着痺(湿痺)』→痛む箇所が一定

 

5.自然界以外の風邪

 古典のまとめられた時代には自然に吹く風以外に、風邪となるものは存在しませんでした。ですが現代では、人工的な風による疾病も多く見受けられます。

エアコンなどの空調設備による風・扇風機・乗り物の窓からの風によって、いわゆる『カゼ』をひいたり、顔面や肩・腕などの痛み・痺れ・運動神経麻痺などを起こす場合もあります。

 

『寒』

 『寒』は季節では『冬』の主気で五行では『水』、五臓では『腎』と関係が深いです。

 冬の気候は寒冷で、気温が急に下がると寒邪が体内に侵入しやすくなります。

 冬以外の季節でも、雨に濡れたり、体を動かして汗をかいて風に当たると、体温が奪われて寒邪を受ける原因となります。

 

寒邪の性質

1.寒は『陰』の邪気であり、陽気を損傷しやすい

 寒邪は陰の性質を持つので、体内に侵入すると相対的に陽気が衰えて陰陽のバランスが崩れます。

 陽気が衰えると温煦作用や気化作用が失調し、寒邪を外へ追い出すことができなくなり、悪寒・悪風といった症状が現れます。

悪寒→さむ気のこと

悪風→風に当たるのを嫌がる

 

2.寒は気血を渋滞させ、痛みを引き起こす(凝滞性)

 寒邪には人体の気血・津液を凝集し滞らせてスムーズな流れを失調させるという特徴があります。

 寒邪が人体に侵入すると陽気の温煦と推動作用が抑えられ、経脈の気血がスムーズに流れなくなり、痛みが起こります

 

3.寒は収縮・収斂の作用を持つ(収引性)

 寒邪が体内に侵入すると体内の気は収斂し、経脈や筋肉は収縮し、引きつれが起こります。

 寒邪が皮毛を侵すと毛穴やソウ理は収縮して閉ざされ、無汗となります。

 衛気が寒邪と戦う悪寒・悪風などの症状が現れ、寒邪が血脈に留まると気血が凝滞して頭痛や脈緊などの原因となり、さらに寒邪が経絡・関節などに留まると、四肢の屈伸不利などの症状が現れます。

 

4.寒は臓腑を直接侵すことがある(直中じきちゅうする)

 寒邪は臓腑を直接侵して疾病を引き起こすことがあります。

 脾胃を侵すと腹の冷えや痛み・嘔吐・下痢を起こし、腎や膀胱を侵すと尿が多くなります。

 

5.自然界以外の寒邪

 夏季の冷房の効きすぎなどが寒邪にあたります。

 

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『暑』

 『暑』は季節では『夏』の主気で、五行では『火』、五臓では『心』と関係が深いです。

 暑邪は陽性の邪気で、盛夏(夏の盛り)にだけみられ、生気を消耗させます。

 近年の夏は殊更に暑いので、皆さんも暑邪や『火』による熱中症には気をつけてください。予防には、水分と塩分の補給が大事!

 

暑邪の性質

1.暑は『火』の邪気である

 暑邪は盛夏の時期に火熱から生じるもので、症状は高熱が出る・顔が赤くなる(面赤)・大汗・煩渇・脈洪数大などがあります。

 

2.暑は陽の邪気で、上昇し発散する(炎上性・開泄性)

 暑邪は陽熱の邪であり、体内に入るとソウ理を開き、汗が多くなります。

 汗が多く出すぎると気と津液を消耗し、身熱・多汗・口渇・脱力感などの症状が現れます。

 

3.暑は湿邪を伴うことが多い

 夏の気候は暑くて雨が多く、湿度が高くなりがちです。

 人体が暑邪を受ける時には湿邪を伴っていることが多く、その場合は四肢の倦怠感・胸苦しさ・悪心嘔吐・下痢など湿の停滞による症状が現れます。

 

『湿』

 『湿』は季節では長夏の主気で、五行では『土』、五臓では『脾』と関係が深いです。

 長夏は夏の終わりの1ヶ月を言いますが、日本では梅雨の時期の邪気となることが多く、湿気が最も盛んな季節に現れると考えられています。

 ところで・・・北海道には梅雨がありません。ですが私の地元は海が近く、6月頃は雨や湿気が多めで、気候によっては毎朝のようにガス(霧のこと)が発生するような地域ですので、梅雨ってこんな感じなのかなと想像することはできます。

それにしてもジメジメして、本当に嫌になりますよね。しかも、段々と暑くなってくる時期ですし。

 

湿邪の性質

1.湿は『陰』の邪気で、人体の下部を侵しやすい(下注性)

 湿邪は水に似て下に流れる性質を持つため、人体の下部を侵すことが多く、例えば水腫は下肢に現れやすく、その他にも帯下(おりもの)・脚気・下痢など下半身の症状が多くあります。

 

2.湿は重く、停滞する(重濁性・粘滞性)

 湿邪が体内に侵入して陽気が損なわれると、頭や体が重く、四肢がだるいなどの症状が現れます。また、湿邪が関節に滞ると関節が痛み腫れ、これを体重節痛と言います。

停滞する性質から湿邪による病は治りにくく、繰り返し再発することもあります。

 また、重濁の濁には不潔という意味があり、排泄物などが汚く異常であることを指し、目やにが多い・便の異常・小便混濁・女性の帯下黄白などの症状が現れます。

 

3.湿は脾胃を侵しやすい

 湿邪が脾胃を侵して運化機能が悪くなると、下痢・尿量減少・腹水・水腫などの症状が現れます。

 

4.自然界以外の湿邪

 天候の湿邪以外にも、汗で濡れた下着を長く着た場合などにも、湿邪による疾病になることがあります。

 

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『燥』

 『燥』は季節では『秋』の主気で、五行では『金』、五臓では『肺』と関係が深いです。

 燥邪は口や鼻から侵入して肺を侵すという特徴があります。

 

燥邪の性質

1.燥は『乾燥』させる働きがあり、津液を損傷させやすい(乾燥性)

 燥邪が人体に侵入すると津液を消耗することが多く、津液不足から種々の乾きの症状が現れます。例えば口や鼻の乾き・喉が乾いて水分を多く欲しがる・皮膚が乾燥してカサカサしたりひび割れたりする・毛髪に潤いがなくなるなどがあります。

 乾燥といえば、これからの時期だと冬場にストーブを焚くことで、加湿器などを使用しないとすぐに空気が乾燥してしまいますね。

私もうっかり加湿器に水を入れるのを忘れると、よく鼻の中が乾燥してヒリヒリします笑

 

2.燥は肺を傷つけやすい

 肺は湿を好み燥を嫌う性質があり、デリケートな臓です。また肺は気を主り、呼吸を主り、鼻に開竅しています。燥邪が体内に侵入する場合は、多くは口鼻より入って肺を侵しやすいです。

症状としては、粘り気のある少量の痰を伴う咳が出たり、痰を吐き出すのが困難になったり、痰に血が混じる・喘息・胸痛などがあります。

 

『火』

 『火』は五行では『火』、五臓では『心』と関係が深いです。

 熱邪には外因のものが多く、風熱・暑熱・湿熱などがあり、一方で『火』は一般に内生の火邪のことであり、心火・肝火・痰火などがあります。

また、風・寒・湿・燥などの外邪が長期に渡って体内に鬱していると、これらが変化して火となることもあり(五気化火)、さらに『怒・喜・思・悲・恐』などの情緒が過剰になることでも、火が生じることがあります(五志化火)。

 厳密にいうと『火』と『熱』は異なるものですが、両者は共通した性質と発病の特徴を持つため、区別しないこともあります(火邪を火熱と表現するなど)。

 

火邪の特徴

1.火は『陽』の邪気で、上昇しやすい(炎上性)

 火は上に向かう性質があるので、高熱・煩渇・顔面紅潮・目の充血・発汗・脈洪数などの症状が現れやすいとされます。また、神明(心)に影響すると、心煩・不眠・狂躁・意識障害・うわごとなどの症状が現れます。

他にも口苦・歯齦しぎん(歯茎)の腫れと痛み・口舌のびらんなど、人体上部に火による症状が出やすくなります。

 

2.火は気や津液を損傷しやすい

 火邪は人体の陰分や津液を消耗しやすく、これらが損傷すると、咽喉の渇き・唇の乾き・口渇・尿量が少なく色が濃い・便秘などの症状が現れます。また、火邪によって気を消耗すると、倦怠・精神疲労・脱力感などが現れます。

 

3.生風・動血しやすい

 火邪が肝陰を消耗して筋脈が十分に栄養を受けられなくなると肝風が生じます。これを『熱極生風』と言い、これには高熱・うわごと・昏睡・四肢痙攣・頭項部の強直などの症状が現れます。

 また、火邪が脈絡を損傷すると動血現象として、吐血・咳血・鼻出血・血尿・血便・皮膚出血・女性の月経過多などの出血症状が生じます。

 

4.腫瘍を形成しやすい

 火邪が深く血分に入り、一定箇所に集まり、血肉を腐食する急性の化膿性疾患や瘡瘍が起こります。瘡瘍に現れる局所の腫脹・発赤・疼痛・発熱は、この火によるものが多いとされています。

 

疫癘(えきれい)

 六淫以外の外因としては疫癘が挙げられます。

 疫癘は強力な伝染力・感染力を持つ外邪のことで、空気や水・食物を通して口や鼻から体内に入り、病を引き起こします。

代表的なものには、ジフテリア・猩紅熱・耳下腺炎・天然痘・コレラ・ペストなどがあります。

 

おつかれさまでした

 以上で六淫外邪の解説を終了とさせていただきます。

 次回は続きから、七情と不内外因を解説していきます。

 どれも基礎の大切なところなので、しっかりと頭に入れておいてください。

 それではまた次回、お会いしましょう!

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