今回は経絡とはそもそも何かということの説明と、身体を流れる正経十二経脈の巡りと主治について、各経絡ごとに解説していきます。
『経絡』って何?
『経絡』とは気血の運行する通路のことです。臓腑が活動するためには気血による滋養が不可欠であり、臓腑の気もまた、経絡によって全身を循環するため、その良・不良は経絡上に全て現れます。
つまり経絡は、臓腑と体表とを結ぶ道筋とも言えるのです。
『経』は人体を縦の方向に走るもので、『絡』は経脈から分かれて身体各部に広く分布します。
これは長い臨床経験によって培われてきた考え方で、三陰三陽や五臓六腑と関連するようになり、今から約二千年ほど前に経絡説は完成したとされています。
経絡には臓腑と連なる『経脈』と、枝分かれした『絡脈』のほか、さらに細かく枝分かれして体表を網の目状に覆う『孫脈(孫絡)』があり、その中でも絡脈の大きなものは『大絡(別絡)』と呼び、全部で15本存在し、正経十二経脈と督脈、任脈、そして脾の大絡からそれぞれ1本ずつ出ています。
経絡には、次のような働きがあります。
・循行上の臓腑や皮・肉・筋・骨に気血を巡らせて、人体の健全な生理活動を維持する
・気血の過不足や外邪の侵入などに応じ、疾病の生ずるところ
・病態に応じて診断をするところであり、治療を施すところ
『(正経)十二経脈』って?
十二経脈には三陰三陽の名が冠せられていて、表裏関係にあるものや同名(同陰・同陽)は治療上でも緊密な関係にあります。
十二経脈は中焦から始まり、手の太陰肺経→手の陽明大腸経と続いていき、足の少陽胆経→足の厥陰肝経→再び中焦と循環を繰り返しています。
経脈の長さですが、一呼吸で6寸(約18cm)進むとされていて、そこから営気・衛気は1日に人体を50周するとされています。
各経脈のあるとされる深さ
足陽明 六分(約1.8cm) 足太陰 三分(約90mm)
足太陽 五分(約1.5cm) 足少陰 二分(約60mm)
足少陽 四分(約1.2cm) 足厥陰 一分(約30mm)
手は全て 二分
ではここから、十二経脈の流注(経脈の流れる道のこと)を見ていきましょう。
手の太陰肺経
中焦から起こり、下って大腸を絡い、返って胃の噴門部を巡り、横隔膜を貫いて肺に属する。
肺から気管・喉頭を巡って腋の下に出た後、上腕の前外側・肘窩(肘の窪み)の外側・前腕の前外側・手関節前面横紋外端の動脈拍動部・母指球外側端を経て、母子外側端に終わる。
また、前腕下部から分かれた支脈が示指の外側端に至り、手の陽明大腸経に繋がる。
肺経は主に呼吸器疾患(咳・喘・胸満痛・咽喉痛など)の際に治療に使う経脈になります。
手の陽明大腸経
手の太陰肺経の脈気を受けて示指外側端に起こり、示指外縁を巡って第1・第2中手骨間の手の甲側に出て長・短母子伸筋腱の間に入る。
前腕後外側を上って肘窩横紋外端・上腕後外側・肩を上って督脈の『大椎』の辺りに出る。そこから大鎖骨上窩を下って肺を絡い横隔膜を貫いて大腸に属する。
大鎖骨上窩で分かれた支脈は頸部を上り、頬を貫き、下歯に入り、返り出て口を挟み、人中で左右が交差し、鼻孔を挟んで鼻翼外方で足の陽明胃経に繋がる。
大腸経は主に目・鼻・口や歯の異常(特に下の歯)・肩・上肢外側・咽喉部の異常・皮膚疾患の際に治療に使う経脈となります。
足の陽明胃経
手の陽明大腸経の脈気を受けて鼻翼外方に起こり、鼻根部で足の太陽膀胱経と交わり鼻の外側を下り、上歯に入って返って口を挟んで唇を巡り、オトガイ(下顎)で交わる。
オトガイから分かれた支脈は総頚動脈拍動部、気管を巡り、大鎖骨上窩に入り横隔膜を貫いて胃に属し脾を絡う。
本経は大鎖骨上窩から胸部では前正中線外方4寸を、腹部では外方2寸を下り、幽門部に起こり腹部を下る支脈と鼠径部の動脈拍動部で合流して大腿前外側・膝蓋骨・下腿前面を下って足背から足の第2指外側端に終わる。
足背で分かれた支脈は足の第1指外側端に至り、足の太陰脾経に繋がる。
胃経は主に、胃腸疾患(腹痛・下痢・便秘など)や顔面・前頸部の異常・歯の異常(特に上の歯)・下肢麻痺痛などの際に治療に使う経脈となります。
足の太陰脾経
足の陽明胃経の脈気を受けて足の第1指内側端に起こり、表裏の境目に沿って内果の前を通り脛骨の後に沿って下腿内側を上り、足の厥陰肝経と交わって前に出て膝を経て大腿内前側を上る。
腹部では前正中線外方4寸を上りながら任脈・胆経・肝経に交わった後、脾に属し、胃を絡う。
さらに横隔膜を貫いて経部では前正中線6寸を上って外に曲がって側胸部中央に至る。さらに上へ向かって肺経の『中府』を通り、食道を挟んで舌根に連なって舌下に広がる。
上腹部から分かれた支脈は横隔膜を貫いて心中で手の少陰心経に繋がる。
脾経は主に、胃腸疾患(食欲不振・腹部脹満・腹痛・下痢など)・月経異常・排尿異常などの際に治療に使う経脈となります。
手の少陰心経
足の太陰脾経の脈気を受けて心中に起こり、心系(心臓や大動脈などの循環器)に属し、横隔膜を貫いて下り、小腸を絡う。
心系から分かれた支脈は上って咽喉を挟んで目に繋がる。
本経は肺を出て腋下に出て上腕前内側・肘窩横紋の内端・前腕前内側・掌を経て小指外側端に至り、手の太陽小腸経に繋がる。
心系は主に、心部の異常(精神不安定・不眠・動悸)の際に治療に使う経脈となります。
手の太陽小腸経
手の少陰心経の脈気を受けて小指内側端に起こり、手の内側・前腕後内側・尺骨神経溝(俗に言うファニーボーン)・上腕後内側を上り肩関節に出て肩甲骨を巡って肩の上から大鎖骨上窩に入り、下って心を絡い、咽喉を巡って横隔膜を貫いて胃に至り、小腸に属する。
大鎖骨上窩で分かれた支脈は頸を巡り頰に上り外眼角に至って耳の中に入る。頰から分かれた支脈は鼻を通って内眼角に至り、足の太陽膀胱系に繋がる。
小腸経は主に、眼の異常・腹部や肩の異常・上腕後側の異常の際に治療に使う経脈となります。
足の太陽膀胱経
手の太陽小腸経の脈気を受けて内眼角に起こり、前頭部を上り頭頂部(百会)で左右が交わる。頭頂部で分かれる支脈は耳の上に行き側頭部に広がる。
本経は頭頂部から入って脳に連なり、帰り出て分かれて項を下り、肩甲骨内側を巡って脊柱両側の後正中線外方1寸5分(1行線)を下り、腰部で脊柱起立筋を通り、腎を絡って膀胱に属する。
本経は腰から下って臀部、大腿部後面を下って膝窩に入る。後頸部で分かれたもう1本の支脈は脊柱両側の後正中線外方3寸(2行線)を下り、臀部・大腿後外側を下り膝窩中央(委中)で本経と合流する。
さらに下腿後面を下り、下腿後外側・外果後方を通って足の第5指外側端に至り、足の少陰腎経に繋がる。
膀胱経は背中の1行線・2行線に治療で使う重要な要穴(背部兪穴)が揃っています。
上半身では首や肩、下半身では腰や下肢に用いられることが多いです。また背部兪穴は腰背部のほか、内臓疾患に効果のあるツボもあります。
そのため基本的に膀胱経は鍼灸のどんな治療においても使わないということは無いと言うくらい、重要な経脈になります。
足の少陰腎経
足の太陽膀胱経の脈気を受けて足の第5指の下に起こり、斜めに足底中央(湧泉)に向かい、舟状骨粗面の下に出て内果の後ろを巡り、分かれて踵に入る。
下腿後内側・膝窩内側・大腿後内側を上り、体幹では腹部の前正中線外方5分、胸部では前正中線外方2寸を上り、本経と合流する。
大腿後内側で分かれた本経は脊柱を貫いて腎に属し、膀胱を絡う。さらに腎から上って肝・横隔膜を貫いて肺に入り、気管を巡って舌根を挟んで終わる。
胸部で分かれた支脈は心に連なり、胸中で手の厥陰心包経に繋がる。
腎経は主に、生殖器疾患・排尿困難・咽喉部疾患の際に治療に使われる経脈となります。
手の厥陰心包経
足の少陰腎経の脈気を受けて胸中に起こり、心包に属し、横隔膜を貫いて三焦を絡う。その支脈は胸を巡って腋窩に至る。
上腕前面・肘窩・前腕前面(長掌筋と橈側手根屈筋の腱の間)・掌を通り、中指先端中央に終わる。
掌の中央で分かれた支脈は、薬指内側端に至り、手の少陽三焦経に繋がる。
心包経は主に、心部の異常(心部痛・動悸・息切れなど)・胃部の異常(胃痛・悪心・嘔吐など)の際に治療に使われる経脈になります。
・手の三陰経の共通症状
横隔膜から咽喉部までの内部臓器や器官の異常(痛み・痺れ・冷熱感・運動障害など)があり、治療の際にこれらの経を使うことがある
手の少陽三焦経
手の厥陰心包経の脈気を受けて薬指内側端に起こり、手背・前腕後面・肘頭・上腕後面を上り、肩に上って胆経と交わり、大鎖骨上窩に入って胸中から広がり心包を絡い、横隔膜を貫いて三焦に属する。
胸中から分かれる支脈は上って大鎖骨窩に出て、項部から耳の後部・上部を経て側頭窩を過ぎ、目の下方に至る。耳の下で分かれた支脈は耳の後ろから中に入り、前に出て外眼角に至り、足の少陽胆経に繋がる。
三焦経は主に、耳の異常・頸部と咽喉部の異常・肩と上肢外側部の異常の際に治療に使われる経脈となります。
・手の三陽経の共通症状
頭部・面部・頸部(感覚器含む)の異常・肩部・上腕部・前腕部・手部の異常があり、治療の際にこれらの経を使うことがある
足の少陽胆経
手の少陽三焦経の脈気を受けて外眼角に起こり、額角・耳の後ろ・頸を巡って三焦経に交わり大鎖骨上窩に入る。耳の後ろから分かれた支脈は耳の中に入り前に出て外眼角に至る。
外眼角から分かれた支脈は胃経の『大迎』に下って三焦経に合し、目の下から頸を下り大鎖骨上窩で合流して胸中に至り、横隔膜を貫き肝を絡い、胆に属する。さらに側腹部を巡り鼠径部に出て陰毛を巡る。
また、支脈は大鎖骨上窩より腋窩に入り、季肋部を下る支脈と股関節で合流する。そこから大腿外側・膝外側・腓骨の前を下って腓骨下端に至り、外果の前に出て足背を巡り、足の第4指外側端に終わる。
足背で分かれた支脈は足の第1指端に至り、足の厥陰肝経に繋がる。
胆経は主に、側頭部や耳の異常・胸脇部や鼠径部、股関節部の異常の際に治療に使われる経脈となります。
足の厥陰肝経
足の少陽胆経の脈気を受けて足の第1指外側端に起こり、足背・内果の前・下腿前内側を上り脾経と交わり、膝窩内側・大腿内側に沿って陰毛の中に入り、生殖器を巡って下腹に至り、側腹部を経て胃を挟んで肝に属し胆を絡う。
さらに横隔膜を貫き季肋に広がり、食道・気管・喉頭・目系(眼球・視神経)に連なり、額に出て頭頂部の百会で督脈と交わる。
目系から分かれた支脈は頰の裏に下り、唇の内側を巡る。肝から分かれた支脈は横隔膜を貫いて肺を通って中焦に至り、手の太陰肺経と繋がる。
肝経は主に、生殖器(外陰部・月経不順・排尿困難等)の異常・胸脇部脹痛・頭部や眼部の異常の際に治療に使われる経脈になります。
・足の三陰の共通症状
腹部臓器類(消化器系・泌尿器系・生殖器系)の異常・下肢内側の異常があり、治療の際にこれらの経を使うことがある
おつかれさまでした
十二経脈とは違う考え方として、『十二経別』『十二別絡(大絡)』『十二経筋』『十二皮部』というものもありますが、基本的に当サイトでは、十二経脈と奇経八脈の『督脈』『任脈』しか扱いませんので、そんなものもあるんだなという認識でOKです。
というところで十二経脈に関してのお話は終了とさせていただきます。
各経脈で重要となるツボの『要穴』については、また別に機会を設けさせていただきます。
次回は奇経八脈の紹介を予定しています。
それではまた次回、お会いしましょう!
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