今回は気と血それぞれで現れる病態について、証ごとに虚と実に分けて分類し、その症状を詳しく解説します。
気の病態について
気は人体を栄養するもの、ということはこれまでのお話で既に理解されていると思いますが、また同時に、それによって養われている組織器官の活動も気の中に含まれています。従って生理面から『気』をいう時には、物質と機能の双方の意味を含んでいることに留意してください。
各種の原因によって気の生成や運行・機能に異常が発生すると、気病が引き起こされます。
気の病証は気の不足である『虚証』と、運動障害である『実証』の2つに大きく分けられ、虚証には『気虚』『気陥』『気脱』が、実証には『気滞』『気逆』があります。
虚証
気虚
元気の消耗・臓腑機能の低下・抵抗力の減退といった病的状態を言います。
原因
・先天の元気不足
・飲食の失調により、水穀の精微が十分に得られない
・大病や久病、あるいは老化による減退、過労
・長期に渡る泄瀉(下痢)
・出産回数の過多・産後の不養生
症状
・推動無力→倦怠・無力感(元気の不足)、息切れ・懶言(宗気の不足)
懶言→話すのが億劫・声が小さいこと
・固摂低下→自汗(衛気不足)
・その他→嗜睡(いつの間にか寝てしまうこと)
※脈診時→虚・弱・無力
気虚証で見られやすい症状は『息切れ・倦怠・無力感・脈弱』
症状が五臓に現れると次のようになります。
心気虚→心悸
脾気虚→下痢・食欲低下
肺気虚→むくみ・自汗・カゼをひきやすい
腎気虚→呼吸困難・失禁・流産しやすい
なお、肝は剛臓と言われていて、肝気虚は極稀
気陥
気虚のため、昇挙無力(引き上げる力が無い状態)となって臓器などが下がってしまう病態を言います。
原因
・先天の元気不足
・飲食の失調により、水穀の精微が十分に得られない
・大病や久病、あるいは老化による減退、過労
・長期に渡る泄瀉(下痢)
・出産回数の過多・産後の不養生
症状
昇挙無力→内臓下垂
固摂低下→慢性の下痢
その他→子宮脱
※全て下へ向かっていくような症状になっているのが特徴
気脱
陰陽が分離(乖離)しようとして出現する危険な病的状態のことを言います。
原因
過剰な発汗(気髄液脱)・ひどい下痢・大量出血(気髄血脱)
症状
温煦無力→四肢の冷え
固摂低下→大汗・失禁
その他→昏睡状態(心に蔵されている『神が散じる』という考え方もあります)
実証
気滞
気滞とは流れが悪くなっていることを言い、気機(気の昇降出入運動)の阻滞・気の運行障害によって起こる病的状態のことです。
原因
・外邪(特に寒邪)の侵入
・情志(憂・思・怒・鬱など)の失調=ストレス
・飲食の不摂生
・閃傷・挫傷・過労による障害
閃傷とは、靭帯や腱が急激に引っ張られた時に起こる損傷のことです
・湿痰やオ血による経絡の渋滞
症状
・膨満感・脹痛
・疼痛部位・程度が一定しない
気滞の好発部位は胸脇部・乳房・胃部とされています。
特徴としては気候や天候・情志の変化により増悪することと、曖気(ゲップ)、失気(オナラ)により軽減することが挙げられます。
気逆
気機の昇降失調により、臓腑の気が上逆する病的状態を言い、気滞の発展した症状でもあります。
ですので原因も、気滞のものと同一となっています。
症状の好発臓腑
・肺気上逆→咳嗽・喘息・多痰・胸悶
・胃気上逆→嘔吐・吃逆・曖気・呑酸(ゲップをすると酸っぱく感じる)
・肝気上逆→頭痛・めまい・怒りやすい・目の充血・腹痛・下痢
血の病態について
血は人体を構成し、脈中を流れて全身を滋養する、生命活動を維持するための重要な物質であることは、これまでのお話で皆さん既に理解されていると思います。
血が全身を正常に運行するためには『心・脾・肝』の3臓が共同作業をする必要があります。従って、この3臓のどの機能が失調しても血の病変が生じることとなってしまうのです。
また気血は相互に依存する関係にあるため、気の病は常に血の病にも影響し、気の阻滞は血オを招き、気が衰えれば血虚を招きます。血の病もまた、気の病に影響し、結オは気滞を招き、血虚は気虚を招き、血が脱してしまうと気も漏れてしまいます。
さらに津液もまた、血と密接な関係があるので、津液に障害がある場合にも血の病を招きます。
血の病証は虚実と寒熱の病態があり、虚実は血の不足である『血虚』と運行障害である『血オ』に、寒熱は『血熱』と『血寒』に分類されます。
血虚
体内の血が不足して、臓腑・器官・肢体・経脈など十分に滋養されなくなることで出現する全身性衰弱の症候(機能活動の低下)のことを言います。
また、特定の原因によって血が所定の部位を滋養できなくなって起こる病証も血虚証とされ、血の不足は『血の生成過程における障害』と、『血の消耗』によるものが考えられます。
原因
・飲食の摂取不足による栄養不良
→『血の生成過程における障害』
・脾胃虚弱による運化作用の低下
・思慮過多
・過労や久病による血の消耗
→『血の消耗』
・失血過多
症状
血の不足あるいは血の滋養作用が減退する病的状態
血不足→顔面蒼白・めまい
舌・脈→舌質淡・脈細
月経→経遅・閉経
その他→皮膚の乾燥・便秘
心→心悸・不眠
肝→目が霞む、乾燥する・四肢の痺れや震え、拘急
血瘀
血の運行が停滞するために生じる症候で、気虚による血行鬱滞・寒凝・気滞による血流阻害・外傷などにより経脈から離れた血が瘀血となって局所に停留する結果、血の運行に影響して生じる状態のことを言います。
血瘀のため、血の性状が病的に変化して瘀血を生じることが多いとされます。
血瘀と瘀血の違いですが、血瘀は状態を表し、瘀血はそれによって生じる何らかの病理産物と考えてください
原因
・寒邪が経脈を凝滞させる
・熱邪が血を粘稠させる(熱が血の水分を蒸発させる)
→病邪が血や脈道に影響し、血流を緩慢にする
・外傷
・痰濁が経脈を停滞させる(病理産物が脈を詰まらせてしまう)
・気虚による推動作用の低下
→血自身の循環障害
・気滞による血行不良
症状
痛み→固定痛・刺痛・拒按
腫塊→固定痛
経穴→血色紫暗・血塊が生じる
望診→顔・唇・爪が青紫・舌にオ斑
脈診→渋脈・結脈
血熱
原因
・湿熱の病邪を感受し、熱邪が血に作用する
・精神的抑鬱や五志が極まると化火し、血熱となりやすい
・辛い味や濃い味を好むと、熱が鬱積し、血熱となりやすい
症状
血熱とは熱が血に影響している病的状態(血行加速による脈外への漏れ)で、各種出血が見られる
肺絡出血→咳嗽・喀血
胃絡出血→吐血
膀胱絡出血→血尿
その他→舌質紅絳・脈数
血寒
原因
・寒涼の病邪を感受し、血の運行失調を起こす
・寒性の飲食物の過度の摂取により、血の運行失調を起こす
症状
血寒とは血が寒に影響している病的状態(血の循環が弛緩して厥冷などを引き起こす)
血の循環弛緩→手足の冷え・身体の冷え・疼痛(オ血による)
経血→血色紫暗・血塊が混入
その他→舌質淡・舌苔白・脈沈遅渋
おつかれさまでした
今回の解説は気と血までとさせていただきます。
次回、続きを解説していきます。
それではまた次回、お会いしましょう!
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