今回で五臓の病証シリーズは最終回となります。最後は五臓の腎についてお話しします。
前回はこちら↓
『腎』の病証
今回も先に腎の生理機能について簡単におさらいしましょう。
1.腎の生理機能のポイント
生理機能
『蔵精を主る』
精気を封蔵する
発育・生長(成長)・生殖に関与
天癸を生産する
腎陰・腎陽を蔵する
『水を主る(主水)』
水液代謝を調節する
『納気を主る』
肺が吸入した清気を腎が取り込む
五行従属
五主→『骨髄』
五華→『髪』
五液→『唾』
五志→『恐』
五竅→『耳・二陰』
2.腎の病証のポイント
・蔵精作用の失調→腎精不足
→生長・発育に影響→発育障害
生殖に影響→生殖機能減退
脳・髄海に影響→めまい・健忘
骨に影響→足腰の軟弱化
・主水作用の失調
→浮腫・痰飲・尿少・無汗
・納気障害→呼吸障害
・その他→耳・歯・髪・腰・二陰と関連する症状
腎の病証の診察ポイント
1.足腰の状態について 2.髪の色艶・脱毛について
3.耳の状態について 4.めまいの有無
5.尿について 6.歯の状態
7.浮腫の有無 8.性機能減退について
9.健忘について 10.発育状態について
腎の各種病証
腎陰虚
腎陰虚は、先天の精の不足や房事過多、過度の出血や脱液(脱水)、驚きや恐怖によるものなどで引き起こされます。
腎陰虚証(八綱:裏虚熱証)
→腎の陰液が不足した病的状態。多くは陰虚により生じた虚熱の症状を伴う。
主な症状としては、陰虚による五心煩熱・盗汗(寝汗)・舌質紅・脈細数と、腎の症状として腰や膝のだるさが挙げられる
他に腎陰の不足症状としてめまいや耳鳴り、生殖機能への影響として男性では遺精(夢精)・早泄(早漏)、女性では不妊症・流産・早産、さらに二便にも影響があり、虚熱による小便黄(色が濃い)・大便秘結(便秘)がある
参考:腎陰虚証の関連病証
肝腎陰虚証
→腎陰虚証の症状+目の乾き・脇痛(肝の関連症状)
心腎陰虚証
→腎陰虚証の症状+心悸・不眠・健忘(心の関連症状)
肺腎陰虚証
→腎陰虚証の症状+乾いた咳・無痰(肺の関連症状。乾いた咳になるのは陰液不足のため)
腎陽虚
腎陽虚は、加齢による腎気虚や房事過多、先天の精の不足などが原因の場合と、他の臓の陽気の不足から波及するものや、腎気虚や腎精の不足から進行して起こるものがあります。
腎陽虚証(八綱:裏虚寒証)
→腎陽の不足により温煦作用・気化作用・生殖機能が低下し、虚寒症状が現れる病証。『命門火衰』とも言われる。
主な症状としては、陽虚による息切れ・倦怠・無力感・寒がり・四肢の冷えと、腎の腰のだるさ・冷えがある。この場合の腰の冷えは陽気不足のため
他にも気化作用の低下により水液が体内で停滞して浮腫が出たり、生殖機能に影響すると、男性では陽萎(ED)、女性では不妊症などの症状が現れる
参考1:腎陽虚の関連病証
・腎虚水犯証(主水機能低下+虚寒)
→浮腫・腎虚症状・陽虚症状
・心腎陽虚証(心腎の機能減退+腎虚水犯証)
→心陽虚症状(心悸・胸痛)・腎虚水犯による症状
・脾腎陽虚証(脾胃の機能減退+腎虚水犯証)
→脾陽虚症状(腹脹・食欲不振・腹痛・喜温・喜按など)・腎虚水犯による症状
参考2:『命門』について
東洋医学において『腎』は『命門』と呼ばれることがあります。せっかく登場したので、簡単に解説しておきます。
・命門とは
→古典『難経』では腎精の数ある働きのうち、基礎活力をもたらす『元気』と子孫を残す大切な働きの『生殖』の2つの働きを命門の働きとした。
命門は最も根本的な生命力の宿るところであるとされている。つまり命門とは、腎の働きの一部と考えられる
・命門の位置に関する4つの説
古典ごとの異なった見解のポイント
1.有形か無形か 2.右腎か両腎か 3.火の機能であるかそうでないか
『難経』
→右腎を命門とする説が有力で、腎は2つあり、左腎を『腎』とし、右腎を『命門』とする
『明のジ搏』
→二腎を命門とする説で、腎は2つとも命門であるとしている
『趙献可』
→二腎の間を命門とする説で、命門は2つの腎の間のことで、腎以外の独立したものである
『明の孫一奎』
→命門の腎間の動気であるとする説で、両腎の中間を命門とするが、ここでは火でも水でもなく、ただ元気の発動そのものを指すとしている
・共通の見解
命門の持つ生理機能の見解は一致している
腎は五臓のもと、真陰と真陽がある
真陰→五臓六腑の陰は腎陰によって滋養されている
真陽→五臓六腑の陽は腎陽によって温められている
・現在の一般的な命門の捉え方
腎陽は『命門の火』、腎陰は『命門の水』
腎を命門と呼んだのは、腎中にある陰陽の重要性を強調するためである
腎精不足
腎精不足証
→腎精不足により、主として発育不良・生殖機能減退・老化が起こる病証。
主な症状
腎精不足→腰や膝のだるさ・耳鳴り(低音のもの)・尺脈弱
発育不良→発育が遅い・骨格が小さい
生殖機能減退→不妊・ED・性欲減退・閉経
老化現象→難聴
脱毛(髪は血余で、精血の不足によって血が足りなくなるため)
健忘(髄海の脳を滋養できないため)
歯の動揺(歯は骨余で、骨は腎が髄から滋養するため)
腎不納気
腎不納気証
→腎気虚のため納気(摂納)が弱くなり、喘息・息切れ・呼吸困難などが起こる病証。病位は『腎』、病態は『気虚による納気減退』
主な症状としては、腎は腰や膝のだるさ・耳鳴り・尺脈弱と、気虚による息切れ・倦怠・無力感、さらに納気機能の減退として、喘息や呼吸困難が現れる
腎気不固
腎気不固証
→腎気虚のため、封蔵・固摂機能が弱まり、精関不固・膀胱失約が起こる病証。病位は『腎』、病態は『気虚による固摂作用の減退』。なお、ここでいう固摂作用は膀胱の制約機能を指す
主な症状としては、腎は腰や膝のだるさ・耳鳴り・尺脈弱、気虚の症状、さらに固摂作用の減退症状として、失禁・遺尿(寝小便)・滑精(夢精の逆で起きているときに起こる)・早泄・流産・早産が現れる
腎不納気証と腎気不固証の鑑別
・共通点
病位は『腎』で、気虚がベースである
・相違点
腎不納気証→納気機能減退(清気を取り入れられないことによる喘息や呼吸困難など)
腎気不固証→固摂機能減退(失禁・滑精・流産など)
おつかれさまでした
以上で五臓の病態についての解説は終了とさせていただきます。
次回は六腑の病証についてお話しします。
それではまた次回、お会いしましょう!
コメント