六部定位脈診のやり方(四診法の切診)と臨床で出現しやすい脈

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 今回は引き続き四診法の切診から鍼灸治療の要となる脈の見方と、それに伴って覚えておきたい臨床での出現頻度の高いとされる脈を解説していきます。

前回はこちら↓

切診って?

 切診は手指や手掌を直接患者に触れて診察する方法で、現代医学では触診に相当します。

 切診は脈診、腹診、切経に分けられていて、このうち脈診は春秋戦国時代から存在するとされている診断法で、東洋医学の中でも鍼灸医学で最も重要視されている診断法です。

 腹診は漢の時代にもあった診断法と言われていますが、中国よりも日本の湯液の分野で発展したものだそうです。近年では鍼灸の分野でも重視されています。

 切経は古典書の『内経』が成立した頃から存在していますが、こう呼ばれるようになったのは近年になってからとのことです。

 

脈診

 脈診は切脈や候脈とも呼ばれ、脈を切して(按じて)脈の数や拍動の状態、強弱などの脈の性状を診て臓腑経絡の異常を診断するものです。

 脈の状態を主に診る脈状診と、拍動する場所を異にする脈の状態を比較して診断する比較脈診の2つに大きく分かれます。

 

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脈状診

 脈状診は左右の手首の寸口(橈骨茎状突起の内側、橈骨動脈拍動部)で脈の状態を診るものです。

 その際は術者の中指は患者の茎状突起の内側拍動部にあて(術者の右手なら患者の左手を診る)、示指は手関節横紋に近い部位に、薬指は肘関節に近い方に3本の指を接するようにして診ます。

以下に私の腕をモデルとして撮影した、脈診時の参考画像を載せておきます。

なお、このように自身の脈を診る場合には左手で右手首、右手で左手首を診ます。

参考1:橈骨茎状突起の位置(赤い丸のあたりに骨の硬い感触があるかと思います)

参考2:脈診時の指の並び(手掌に近い側から、示指・中指・薬指です。この時、母指は手の甲側の手首に当てて、寸口部を挟み込むようにして構えます)

 3本の指が触れる部位をそれぞれ、寸(寸口)・関(関上)・尺(尺中)と呼び、これらを総称して寸口(気口・脈口)とも言います。

 脈は主に西洋医学では心拍数を診るだけですが、東洋医学では脈の性状から病因を推察したり、発熱の度合いや予後の判定、病が進行中か回復中かなどを判断したり、手技や治療法までをも選定する重要な診断法です。

 脈の大まかな分類は、次のようになります。

 

無病または健康人の脈状(平脈)

  無病で健康な人の脈は1呼吸に4〜5回(1分間で60〜80回)動くとされていて、形状も硬くも柔らかくもなく、太くも細くもなく、浮き沈みもなく、不整脈もないなど、目立った特徴がありません

このような健康な脈を平脈と言います。ただし特徴がないと言っても、季節に応じた脈の状態を少し兼ねているほうが良いとされています。

参考:五季と脈状

  五季       脈状

   春       弦

   夏       洪・鉤

  長夏       代・緩

   秋       毛・渋

   冬       石・滑

 

祖脈

  脈状については色々と古典に記載されて臨床に応用されていますが、その基本となるものを祖脈と言います。一般的には浮・沈・遅・数の四脈を指しますが、この4つだけではとても30種類ほどもある脈状を表現することはできません。

そのため、この4つに虚実を加えて六脈とする説、さらに滑・ショク(渋)を加えて八脈とする説などがあります。しかし、これでもなお全ての脈の表現はできません。

このことから祖脈は最も基本となる脈状で、これらの脈を理解することから脈診の勉強を始めなさいという教えであるとも考えられています。

 

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七表八裏九道(しちひょうはちりきゅうどう)の脈

  →古典『脈論口訣』では、基本の脈状を二十四にまとめ、表の脈(陽脈)として七脈、裏の脈(陰脈)として八脈、どちらにも属さない脈として九脈に分類しました。

以下にその中でも臨床で出やすい脈状とその病証、また、現役の鍼灸学生の方に向けて、二十四ある脈の覚え方について記しておきます。

臨床での出現頻度の高い脈とその病証

・浮脈→軽く按じる(触れる)ことで拍動が指に感じられ、強く(押し込むように)按じれば感じ方は弱くなるが空虚でない脈で、表証や虚証で見られる

・沈脈→軽く按じても感じられず、強く按じることで得られる脈で、裏証(虚実問わず)で見られる

・遅脈→1呼吸で3拍以下(1分間で60回以下)の緩慢な脈で寒証(虚実問わず)で見られる

さく脈→1呼吸で6拍以上(1分間で90回以上)の速い脈で、熱証(虚実問わず)で見られる

・滑脈→脈の流れが滑らかで円滑に指に触れ(1分間80回以上でやや力有り)、例えるならば盆に珠を転がしたようだと言われる脈で、痰飲や食滞、湿証で見られ、時に妊娠時にも見られる

・渋脈(ショク脈ともいう)→ザラザラして渋滞したような脈で、血オや血虚で見られる

・虚脈→浮中沈で、ともに拍動が細く、消極的な力のない脈で、虚証で見られる

・実脈→浮中沈で、ともに拍動は大きく、力強く積極的な脈で、実証で見られる

・弦脈→弾力に富み、指が拍動によって叩かれているように感じられる脈(琴の弦を按じるような脈)で、肝胆病や痛証、痰飲で見られる

・緊脈→緊張していて張り詰めた藁を按じているような脈(弦脈に似ている)で、実証や痛証で見られる

じゅ脈(軟脈)→浮いていて細く柔らかい力のない脈で、湿証や虚証で見られる

・細脈→糸のように細いが指でしっかり触れられる脈で血虚や陰虚で見られる

・結脈→時々止まるが、止まり方は一定しない脈で血オや寒証で見られる

・代脈→規則的に止まって間欠時間が割と長い脈で、臓器の衰退や痛証で見られる

 

二十四脈の覚え方(語呂合わせ)

・七表の脈

 浮脈・孔脈・滑脈・実脈・弦脈・緊脈・洪脈

 →乞う

※孔脈の『孔』は正しくは部首の『くさかんむり』がつく

 

・八裏の脈

 微脈・沈脈・緩脈・ショク脈・濡脈・弱脈・遅脈・伏脈

 →ショク吹く

※濡脈は軟脈、渋脈はショク脈とも言われるので、語呂合わせではそちらを使っている

 

・九道の脈

 短脈・長脈・牢脈・動脈・虚脈・結脈・代脈・細脈・促脈

 →調虚しいけったいな道を

 

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七死脈

 →死期が近いと見られるとされる脈で、非常に遅い徐脈や非常に早い頻脈、脈の当たり方が極端に硬いか柔らかいもの、不整脈の中で一定の基本リズムのない代脈の変形などがあり、実際にも応用できる脈状として知られています。

これも現役鍼灸学生の方のため、以下に語呂合わせを記しておきます。

七死脈の覚え方(語呂合わせ)

 雀啄じゃくたく脈・魚翔ぎょしょう脈・ユウ脈・弾石だんせき脈・解索かいさく脈・釜沸ふふつ脈・屋漏おくろう

 →スズメ雀啄魚翔エビ蝦ユウを、弾石解体解索して釜茹で釜沸にして送ろう屋漏

 

比較脈診

 これは拍動部位を異にする脈を相互に比較して、臓腑経絡の異常を診る方法を言います。

 脈状診がどちらかといえば病人や病気の状態を診ることに重点が置かれているのに対し、比較脈診では臓腑経絡の異常を診断することに重点が置かれています。

 比較脈診には、三部九候さんぶきゅうこう診』、『人迎脈口じんげいみゃっこう診』、『六部定位ろくぶじょうい脈診』の3つがありますが、ここでは鍼灸治療で最もメジャーな六部定位脈診にフォーカスを当てて解説します。

 六部定位脈診は、現在日本で最も多く用いられている脈診法で、古典の『難経』で最初に確立、その後にいくつかの改良が試みられて現在の形になったとされています。

 元は臓腑の異常を診る診断法でしたが、その後の改良によって経絡の異常も診られる診断法となりました。

 脈診の部位は脈状診の寸口の部位で、左右の寸・関・尺の六部を比較します。

 また、寸関尺それぞれの圧力の違いによって、『浮・中・沈』という、脈がどの深さにあるのかということも診ることができます。

一般的に脈の深さは、寸・関の脈はともに6分(約1.8センチ)尺脈のみやや深くて7分(約2センチ)とされています。

 六部定位脈診はこのように、各部の脈の強さを比較するものですが、六部定位脈診と脈状診を組み合わせて六部定位脈状診などと呼ぶこともあり、脈の強弱だけでなく、様々な脈状で比較する試みも行われています。

六部定位脈診のやり方

脈診では示指・中指・薬指の順で左手で肺・脾・心包(患者の右手)の脈、右手で心・肝・腎(患者の左手)の脈を診る

1.先ほどの画像のように寸口部に指を当て、次いで3本の指で脈の拍動を捉える(寸・関は比較的捉えやすいが、尺脈は人によってはやや強めに圧迫しないと捉えられないことがある)。中脈を捉えたら、少し圧を緩めて浮の部の脈を診る

2.それぞれの拍動を捉えたら、それが感じられなくなるところまで圧迫する。この時、沈の部の脈も診ておく

3.拍動が消えたら元の位置まで圧迫を緩める。脈状診などの知識と照らし合わせ、ここまでの手順で自身が感じ取った患者の脈の状態を分析し、カルテに記載する

 

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・浮中沈について

 最も強く感じる中脈を起点として、それよりも少し浮かした浅い部位を浮の部と言い、腑や陽経の異常を、逆に少し沈めた部位を沈の部と言い、臓や陰経の異常を診ます。

 

・中脈について

 『胃気の脈』とも言われ、六部定位脈診での浮中沈の中に位置する部位の脈のことです。示指・中指・薬指の3本の指を寸関尺の部位に軽く当てて徐々に押圧していくと脈に触れることができ、指の圧力を強くしていけば脈の触れ具合も大きくなっていきます

この時、脈が最も強く感じる深さを浮中沈の中の部位といい、その部分の脈を言います。

 中脈は胃の気が反映している脈で、中脈がしっかりしていれば、胃の気が整っていることを示し、生命力があることを意味します。

逆に弱かったり異常がある場合は胃の気が整っておらず、生命力不十分で病の治癒が困難だったり、場合によっては死証としてみることもあります。

 

参考図:寸関尺に配当される臓腑と浮中沈

 

付録:虎口三関の脈

 虎口三関ここうさんかんの脈は小児の望診法の1つですが、脈の話にも触れているので、こちらで紹介させていただきます。

 3〜4歳くらいまでの小児の場合、寸口部での脈診が困難なために使用する方法で、第2指(示指)の手掌側の皮膚の色を診て診断します。

第2指の節(関節)ごとに、風関・気関・命関と3部に分け、それぞれの色や紋様の現れ方で病状や予後を判定します。なお男児は左、女児は右を診ます。

健康な場合は黄味を帯びた淡紅色で、特別な紋様は現れないとされます。

 発病に伴って、虎口(示指の付け根)から色の変化や紋様が現れ始め、病状が重くなっていくに連れて風関から気関、命関へと移っていきます

それぞれ色や紋様が風関にあるときは病が軽く、気関にあるときは重く、命関にあると治し難いとされています。

虎口三関の脈の色変と症状

・淡紅色→寒により、熱が表にある

・濃紅色→寒に障害されたもの

・紫色→深部に熱がある

・黒色・黄色→重症で治し難い

 

おつかれさまでした

 以上で切診の脈診に関する解説は終了とさせていただきます。

 これらを参考に、皆さんもご自分の脈を診てみてください。正直、最初はチンプンカンプンになると思います。

 でも脈診は最初は誰しも『んー・・・何となくこんな感じの脈・・・かな?』から始まります。私もそうでした笑

 次回は切診の続きからです。

 それではまた次回、お会いしましょう!

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