今回は六腑の残り3つと奇恒の腑とは何なのかについて、解説していきます。
『大腸』
六腑の『大腸』は腹中にあり、長管状で小腸に比べて太く、上口は小腸に接続し、下端は肛門に達しています。五行では肺と同じ『金』に属します。
では機能を見ていきましょう。と言っても、大腸の主な機能は1つです。
『糟粕の伝化を主る』
大腸は『伝導の官』とも言われています。伝導とは、上に接して下に伝えることを意味しています。
大腸と表裏の関係である肺の粛降作用によって大腸の伝導は行われていて、また腎の気化作用も関係します。
このことから『腎は二便を主る』とも言われます。
大腸は、小腸の泌別によって残った糟粕の中から水分を吸収して、糞便にして肛門から排泄します。
この伝化作用に失調があると、下痢や便秘を起こします。
『膀胱』
六腑の『膀胱』は小腹(下腹部)中央にあって、錐体状の貯尿器官です。五行では腎と同じ『水』に属します。
膀胱も、機能は主に1つしかありません。
『貯尿と排尿』
人体の水液代謝の過程において、水液は肺・脾・腎・三焦の作用で全身へ散布され、その後、膀胱へ達して尿に変えられ、膀胱の気化作用によって体外へ排泄されます。
この膀胱は腎と繋がっていて、表裏の関係でもあり、尿を留めたり排出したりします。
尿は津液が変化したもので、腎の気化作用で作られて膀胱へ送られます。一定量の尿が溜まると尿意を感じて排尿します。
膀胱の貯尿と排尿の機能は、腎の気化作用で調節されます。
では異常が起こるとどうなるのでしょうか?
・膀胱の気化作用が失調した場合
→小便不利(排尿困難)・癃閉(排尿障害、尿閉)
・膀胱の制約機能が失われた場合
→頻尿・尿失禁
『三焦』
六腑の『三焦』とは、『上焦・中焦・下焦』の総称のことで、胸腹腔全域に分布している大腑です。
三焦は六腑の1つではありますが、具体的な概念は明確でなく、『名前はあっても形はない』とされており、後世においては討論が持ち上がることもあったそうです。
しかし、三焦の機能については『諸気の管理』と『水道を通行させること』で一致しています。
現在最も有力なものは、胸腹腔を1つの中空の腑とし、その体腔全てを三焦と考える説です。
また三焦は、人体の臓腑のうちで最大のものと考えられたため、『孤府』とも呼ばれています。
重要なのは『どんな臓器が具体的な三焦なのか?』ではなく、生理的・病理的な意味を知ることです。
では、機能を見ていきましょう。
1.諸気を主宰し、全身の気機と気化作用を統括する
元気は腎に蔵され、三焦によって全身へ運ばれます。したがって三焦は気化が行われる場所であり、気が昇降出入する通路とされています。
2.水液運行の通路である
三焦は疎通水道・水液運行の作用を持っていて、水液が昇降出入する通路にもなります。水液の代謝は多くの臓腑の共同によって行われますが、三焦の疎通水道の機能によって初めて正常に行われます。
ちなみに、気機と水液運行の三焦機能は互いに関連しています。
水液の流通は昇降出入する気の運動(気機)で行われていますが、その気が存在して移動するためには、血や津液といったものに付着して、それを動かさなければいけません。
ですので必然、気が昇降出入する通路には血や津液も流れることになります。また、津液が昇降出入する通路も気の通り道となります。
では三焦に異常が起こるとどうなるのでしょうか?
三焦の水道が不通となる
→肺・脾・腎などの水液の輸送・散布・調節機能に影響→水液が貯留→小便不利・水腫
参考:三焦の区分と機能特性
・上焦
部位→横隔膜より上の胸部。心と肺(頭部も含む)
生理機能→気の昇発と宣散(下降も主る)、衛気による体温調節
・中焦
部位→横隔膜より下でお臍より上。脾と胃。肝と胆
生理機能→脾胃の運化作用
・下焦
部位→臍から下。小腸・大腸・腎・膀胱
生理機能→排泄機能
奇恒(きこう)の腑
今回は奇恒の腑についても解説してしまいます。
奇恒は、平常と異なるという意味です。
脳・骨髄・骨・脈・胆・女子胞の6つを言います。
これらは臓に似ているが臓ではなく、腑に似ていて腑ではありません。
奇恒の腑の特徴
・生理機能
五臓との類似点→精気を蓄え、生体の成長活動の源になっている
五臓との違い→精神活動を主る働きは見られない
・形態
六腑との類似点→中空性のものが多い
六腑との違い→飲食物を消化したり、排泄する管ではない
・胆を除いて、陰陽関係・表裏関係がない
『骨・髄・脈』
『骨』は体表から最深部にあり、堅く、中に髄を入れています。
『髄』は骨の中にあって、骨格を滋養します。
骨・髄・脳は『腎』と密接に関係しています。
『脈』は営気と血を中に通していて、漏れないようにして全身に行き渡らせます。
脈は『心』が主り、『脾』の統血作用も血が脈外へ漏れ出ないように防いでいます。
『脳』
『脳』は頭蓋骨内にあり、後頸部にある督脈の経穴『風府』にまで至っていて、『髄』が集まってできたものとされています。
1.脳は精神・思惟を主る
脳は頭蓋内にあり、髄が集まってできたもので、脊髄に連なります。
骨の中にある髄は全て脳に属するとされていて、このことから脳は『髄海』とも言われます。
2.脳に関する生理機能
脳は『元神の府』であり、心は『君主の官』『五臓六腑の大主』。
精神作用を統括するのは『心(神気を主る)の機能』とし、五臓に分類しました。
心は『神』を蔵し『喜』を、
肺は『魄』を蔵し『悲』を、
脾は『意』を蔵し『思』を、
肝は『魂』を蔵し『怒』を、
腎は『志』を蔵し『恐』を、
それぞれ主っています。
しかし精神活動の一部は脳にもあると見られています。
『女子胞』
『女子胞』は小腹部・膀胱の後ろにあり、梨を逆さにしたような形と言われます。女子胞は現在でいう子宮のことです。
主な機能は月経・妊娠を主ることです。
女性の月経と妊娠には複雑なプロセスがありますが、それには次の3つの生理要素があります。
1.『天癸』の作用
生殖器官の発達は『天癸』の作用です。
これは腎中の精気が一定量に達することで作られる物質のことで、生殖機能を促進させる働きがあります。
現代でいう第二次性徴と考えるとわかりやすいと思います。
2.衝脈・任脈の働き
衝脈は胞中から起こり、十二経脈の気血を調節します。
胞中は下腹部にあります。『丹田』というと聞いたことがある方もいると思うので、イメージしやすいと思います。空手などの武道では大切に考えられる場所です。
任脈も胞中から起こり、下腹部で足の三陰経脈と交差して全身の陰経を調節します。
足の三陰経脈とは『肝・脾・腎』のことです。
交わる場所は足の太陰脾経の経穴にもあり、そのまま『三陰交』と言われます。
女性がかかりやすい疾患や証の治療穴として取穴することが多い、かなりメジャーなツボです。
十二経脈の気血が満ち溢れて衝脈と任脈に流れ込み、衝脈と任脈の調節によって胞宮へ注がれて月経が始まります。
3.心・肝・脾の働き
『心』は血脈の管理、『肝』は藏血、『脾』は気血を生化する源を作り出します。
いずれかに失調があると以下のようなことが起きます。
・肝の蔵血と脾の統血作用が減退すると・・・?
→月経過多・周期が短い
・脾の機能低下が起こると・・・?
→月経血量減少・周期が長い
・感情変化によって心神が傷つき、肝の疏泄機能に影響すると・・・?
→生理不順
おつかれさまでした
以上で『六腑』と『奇恒の腑』についての解説は終了とさせていただきます。
少しでも六腑の理解のお手伝いができましたら幸いです。
次回からはこれまでに説明した『五臓』と『六腑』の関係についてまとめていきたいと思います。
それではまた次回、お会いしましょう!
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