今回も引き続いて、肺の病証と病態、症状についてお話します。
前回はこちら↓
肺の病証
今回も解説を始める前に、簡単に肺の生理機能をおさらいしましょう。
1.肺の生理機能のポイント
生理機能
『気を主り、呼吸を主る』
気の生成と気機の調節、ガス交換
『宣発と粛降を主る』
・宣発(上へ外へと向かう動き)
津液、衛気を全身に輸送
体内の濁気を呼出する
ソウ理の開閉により汗を出す
・粛降(下へ内へ向かう動き)
水穀の精微・津液を下へ降ろす
清気を吸入する
肺や気道の清潔な状態を保持する
『通調水道』(水の巡りを主る)
体内の水液の輸送と排泄に対する肺の働き
『百脈を朝め、治節を主る』
・百脈
全身の脈(経脈・血脈)
肺に全身の経脈が集まる
・治節(呼吸の管理と調節)
呼吸の調節
気機(気の昇降出入)の調節
血の運行を管理
宣発・粛降による水液の代謝
五行従属
五主→『皮毛』
五華→『毛』
五竅→『鼻』
五液→『洟』
五志→『憂』
肺には『気を主り、呼吸を主る』『宣発と粛降を主る』『通調水道』『百脈を朝め治節を主る』という多くの生理機能があり、また、肺気を体表へ宣発し、肌膚を温煦し、外邪の侵入を防御しているため、肺の病変は外邪によるものが多いとされています。
また、肺の陰陽気血の失調は、主として肺気の宣降失調として現れることになります。これは気機の昇降出入に影響し、呼吸機能の異常・水液代謝・衛気の機能障害・血行障害などを引き起こす原因になります。
肺の血虚は稀ですが、これは『百脈を朝め』、百脈(全身)の血が肺に集まるためと考えられます。
2.肺の病証のポイント
・主気、呼吸の障害
肺失宣降→呼吸の異常・咳嗽・喘息などガス交換に関わる機能に障害
宗気不足→息切れ・懶言(話すのが億劫)・呼吸無力など、気が不足して推動無力になることによる障害
・宣発粛降の失調
→呼吸の異常
↓進行すると・・・。
・通調水道の失調
→浮腫・尿少・無汗・痰飲(濁)
・百脈を朝める機能の失調
→咳嗽・心悸→肺失宣降・血行障害が起こる
・その他の症状
→皮毛・鼻・洟・憂悲と関連する症状
肺の病証の診察ポイント(病位情報)
1.咳の有無 2.喉の症状について
3.呼吸の状態について 4.胸悶感の有無
5.喘息の有無 6.感冒(カゼ)について
7.痰の有無 8.浮腫の有無
9.鼻の症状について 10.汗について
肺の各種病証
肺気虚
肺気虚は、慢性の咳で肺の気を損傷した時や脾虚のほか、汗のかきすぎで汗とともに気が外に漏れてしまい、結果として肺の気を損傷するなどの原因によって引き起こされます。
肺気虚証(八綱:裏虚証)
→肺の機能低下の病証。衛外不固と津液輸送障害の失調が現れる。
衛外不固とは衛気が外を固められず、ソウ理の開閉が上手くいかなくなったり、体表を守れないことを言う
主な症状としては、気虚の息切れ・倦怠・無力感がある。なお、肺には失調した機能ごとに症状が出る
・宗気不足・呼吸機能低下
→無力な咳嗽(肺そのものの機能が低下するため)
・通調水道の失調
→浮腫・痰飲(水液代謝ができないため、水液が滞り病理産物ができる)
・衛外不固
→易感冒(カゼをひきやすくなる)・自汗(何もしなくても汗が出る)
肺陰虚
肺陰虚は、長期の咳や熱病による肺陰の損傷、燥邪などによって引き起こされます。
肺陰虚証(八綱:裏虚熱証)
→肺の陰液が損傷し、虚熱が内生し、肺失清粛となり起こる病証。
主な症状としては、陰虚による五心煩熱・盗汗・舌質紅・脈細数と、肺には陰の不足により、乾いた咳と咽頭の乾きが出る。
痰湿阻肺
痰湿阻肺証(八綱:裏実証)
→痰湿によって肺失宣降となって起こる病証。
主な症状としては、湿痰が溜まることによる多痰・舌苔白膩と、肺には咳嗽・胸悶があり、痰が出ると咳嗽が軽減するという特徴がある。
なおこの証による痰は色は白く粘性がある
おつかれさまでした
肺の病態の解説は以上とさせていただきます。次回も引き続き、五臓の病証を解説します。
ではまた次回、お会いしましょう!
・・・と、今回はもう少しだけ続きます。
以下に陰虚・陽虚・実熱の各共通症状と応じる各臓の代表的な症状をまとめておきますので、参考としてください。
参考:病態と病位について
陰虚
・共通症状
五心煩熱・盗汗・口渇・頬部紅潮
舌質紅・舌苔少・脈細数
・臓ごとの症状
『肺』→乾いた咳・痰少
『心』→心悸・不眠
『肝』→目の乾き・脇痛
『腎』→腰痛・耳鳴り
『脾』→食欲不振・消痩
陽虚
・共通症状
気虚による症状・寒がり・四肢の冷え
舌質淡・舌苔白・脈沈遅
・臓ごとの症状
『心』→動悸・心痛
『腎』→腰痛・不妊
『脾』→腹痛・下痢
実熱
・共通症状
口渇・身熱・顔面紅潮・小便黄
舌質紅・舌苔黄・脈数有力
・臓ごとの症状
『肺』→咳・痰が黄色い
『心』→心悸・不眠
『肝』→目の充血・脇痛
『腎』→口渇・便秘・口臭
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