今回は前回に続いて精と津液が不足した場合やその他の病態で現れる症状について、その原因とともに解説していきます。
前回はこちら↓
精の病態について
腎が貯蔵する精気は人体の生殖・生長・発育・生命活動を維持する基礎的な物質で、腎精は『先天の精』と『後天の精』が互いに化合することで生成されます。そして腎は精気を蓄え、無駄に流出させないようにして、その生理機能を発揮させています。
先天・後天の精は生産される場所は違いますが、どちらも腎に蓄えられ、互いに依存し利用しています。先天の精は後天の精によって常に補給されながら、その生理効果を発揮します。
逆に後天の精を生み出すには先天の精も必要となり、両者は互いに助け合い、腎において強く結合し、腎中の精気となっているのです。
腎の病証は腎精の不足によるものであり、そのため『発育』『生殖』『老化』に影響し、腎が関与する生理機能にも異常が発生します。
ではここで五臓の腎について軽くおさらいしてから、腎精不足の病証を見てみましょう。
腎の生理機能
『蔵精』→発育・生長・生殖に関与
『主水』→水液代謝の調節
『納気』→吸気を腎に納める
腎の五行従属
五主→『骨』
五華→『髪』
五竅→『耳・二陰』
五液→『唾』
五志→『恐』
腎精の作用
・生長と発育を主る
・天癸を生成する(生殖機能の発現。東洋医学的には、男『16』女『14』)
・腎陰・腎陽を化生(陰陽の根元)
・髄を生じ脳を充す(精神活動)
・化血(血が足りないと精が血に変わる。『精血同源』)
腎精不足の原因
・先天的な不足
・栄養の吸収不良など
・高齢・久病による消耗
・房事過多による消耗
腎精不足の病証
・精の不足による病的状態
『発育不良・不妊症・閉経・性機能減退・早期の老化』など
・精の不足による腎の機能低下で現れる症状
『耳鳴り・難聴・眩暈・健忘・痴呆・足腰だるい・脱毛・歯が動いたり抜ける』など
※耳鳴りには2種類あり、高音のものは肝、低音のものは腎から来るとされている
津液の病態について
津液は体内にある、血以外のあらゆる正常な水液のことで、水穀の精微から作られ三焦を通路とし、体内全てを潤して保護していることは既に理解されていると思います。
津液の散布には『衛気』が関与しているため、津液は防御作用にも関係していると考えられます。また、血の重要な組成成分で、血脈に注がれ血を栄養し、サラサラにして流れやすくさせ、血量を調整しています。
津液の生成・散布・排泄は複数の臓腑が共同で行っていて、そこには複雑なプロセスがあり、血と同様に脾胃が水穀を運化することで作り出され、肺の宣発作用で全身へ送られます。
体表で栄養と潤いを与えて汗として代謝され、腎の『水を主る』という蒸留気化の作用によって『清』を回収し『濁』を膀胱へ送って尿として体外へ排泄します。
津液は血の構成成分でもあるため、心と肝の作用に影響されますが、『肺・脾・腎』が中心となって生成・運搬・排泄を行うため、津液の病証の治療も主にこの3臓を中心に行います。
津液の病証は大きく分けて、『津液不足』と『津液の過剰』が考えられます。
津液の不足
津液の不足とは津液が量的に大幅に減少し、津液欠乏となった病態を言います。
端的に言えば、身体の水分不足の状態です。
津液不足は、津液の生成不足と、津液の消耗過多によって生じる場合とがあります。
なお虚実で分けると津液の不足なので、虚証となります。
原因
・飲食の不摂生、摂取不足
→津液の生成過程における障害
・久病、労倦
・臓腑の火
・燥熱の病邪
→津液の消耗
・発汗過多
・燥熱剤の多用
症状
津液不足により、体内に潤いが不足する病的状態
鼻、咽頭、口唇の乾燥・声が掠れて出なくなる
毛髪にツヤがなくなる・皮膚にハリがなくなる・尿量減少・便秘
舌診→舌苔燥
痰飲(津液の代謝障害)
主として津液代謝に関わる臓腑の機能が失調することによって起こり、津液が停滞します。
これには津液の輸送障害と排泄障害があります。
なお、虚実で分けると津液の循環が悪くなっているので、実証となります。
原因
・外邪
・七情内傷
・飲食の不適切
・久病・労倦
症状
津液の輸送障害や排泄障害により起こる病的状態を以下に記す
1.津液停滞により『湿』が生まれると・・・
→浮腫・下痢・体が重だるい・胃のつかえ
2.さらに進行して『痰』が生まれると・・・
→咳嗽・多痰・心悸・不眠・胸悶・悪心・四肢の痺れ、疼痛(四肢の症状には脾が関与)
津液の代謝障害について
津液の輸送配布には『肺・脾・腎』などの臓が協調し『三焦』を通って行われています。これらのうちどれか1つの機能が失調した場合、あるいは2つ以上の臓腑間の協力関係が失調した場合に津液の輸送障害が現れ、津液の停滞・痰飲の形成・水湿の内停が起こります。
肺・脾・腎の水液代謝を調節する機能が失調すると・・・?
・肺失宣降→津液の散布・輸送ができない
・脾失健運→水湿が停滞
・胃陽不足→気化できず、水湿が化さない
・三焦不通→水と気が互いに結す
+気滞・寒凝・湿聚・火熱が津液を煮出す
↓ 結果・・・。
それらが集まって痰飲となり、三焦の各部に停滞する
津液の排出障害について
津液は肺の宣発作用によって体表に散布され、汗として体外へ排出されます。また、腎の気化によって三焦を通り膀胱に運ばれ、尿として体外に排出されます。
従って、これらのどこかに異常があると水液は体に停滞し、水腫が発生します。
痰飲の存在場所と臨床症状
肺→咳嗽・喘ぐ・痰が多い
心→動悸・昏迷・精神錯乱・不眠
胃→悪心・嘔吐・胃部が張って苦しい
三焦→往来寒熱(熱が上がったり下がったりする)
頭部→眩暈・昏倒
咽頭部→喉に何か詰まったように感じる(『梅核気』肝が原因)
胸脇部→脹満感
四肢→疼痛・痺れ
備考:西洋医学的な水液と津液について
痰飲は一般に薄いものを『飲』、濃いものを『痰』といい、これは水液代謝の失調や低下、血管透過生の増大(血液の成分が組織に漏れること)や炎症などが基となって体内に貯留した異質な水液のことです。
つまり津液(血漿)の過剰状態を指し、胸水・腹水・内耳性のめまいなどを含んでいます。
『痰』という漢字は『炎』と『やまいだれ』から構成されることから、急性・慢性炎症の病理産物であると理解でき、単に津液の過多というだけでなく、炎症の病理産物を構成する成分が変化したものであるともいえるのです。
おつかれさまでした
以上で気血精津液に関する病態の解説は終了とさせていただきます。
次回からは五臓の病態についてお話ししていきたいと思います。
それではまた次回、お会いしましょう!
コメント