今回も五臓の肝が持つ機能と、関係する身体の部位を解説していきます。
五臓の『肝』って?
『肝』は横隔膜の下で右脇の内部にあるとされていて、五行では『木』に属します。
『魂』のある場所であり、血の臓であり、筋の元締め。
また、五行の木に属することから、動くことと昇ることを支配します。
次からその機能を見ていきましょう。
肝の生理機能
『疏泄そせつ』を主る
『疏』は詰まっているものを流すことで、『泄』は発散や蒸発、上へと押し上げる力を指します。
この機能によって、全体のバランスをとっていると考えるとイメージしやすいです。
1.気機の調節
気機→気の昇降出入運動のこと
肝の疏泄機能とは、昇降出入する気の調節のことです。
『肝』が気を昇らせ、『肺』が気を降ろします。この釣り合いが取れていることで、気の昇る量も調節されます。
この関係は五行の相克で表すことも可能です。肝は『木』に属し、肺は『金』に属します。肝が気を昇らせすぎないように、肺が降ろして抑える役割を持つのです。
身体の臓腑経絡・器官などの活動は、全て気の昇降出入によって行われます。
2.脾胃の運化機能の促進
肝の疏泄機能には、脾の昇精と胃の降濁のバランスを取る役目もあります。
なお胆汁は、肝の余った気で生成されます。これは五臓の『肝』と六腑の『胆』が表裏関係にあることが関係しています。
3.情志の調節
精神活動というものは全て、『心』の働きに関係します。これを『心は神志を主る』と言います。
肝の疏泄作用が正常に働いていれば気機は正常になり、気血の調和が生まれ、感情も正常になります。
では、疏泄機能に失調があった場合、どうなってしまうのでしょうか?
・気機に対しての失調
1.流れが悪くなった場合
気機鬱血→胸脇、両乳、少腹に脹痛(腫れぼったい痛み)、不快感
少腹とは下腹部、特に左下腹部のことを指します。肝・脾・腎の病変で異常が出やすく、中でも関係が強いのが肝です。
血行障害→生理不順、月経痛、閉経
閉経とは3ヶ月以上月経がない状態のことで、加齢による閉経とは異なるので注意してください。
津液輸送→痰飲などの病理産物の生成
2.逆流(肝気上逆)した場合
気血が巡り過ぎてしまい、喀血・吐血・突然の昏睡に陥ることがあります。
・運化作用に対しての失調
1.脾胃の昇降機能の失調
→曖気(ゲップ)、腹部膨満感・疼痛、下痢
2.胆(汁)に影響した場合
→脇下脹満、口が苦い、消化不良
・情志に対しての失調
抑鬱→わずかな刺激で抑鬱状態になりやすくなる
興奮→イライラ、怒りやすくなる
なお外界の精神刺激である『怒』は、肝の疏泄機能に影響を及ぼしやすいです。
『臓血』を主る
肝が血を貯蔵し、血流量を調節する生理機能のことを言います。
河川にあるダムをイメージすると覚えやすいのではないかと思います。
機能としては、それぞれ次のようになっています。
- 臓血機能→人体各部の血液量(特に末梢の血液量)を調節する。これによって人体各部の血液量は一定に保たれています。
- 血流調節機能→血を蓄えることに付随した機能で、十分な血液が蓄えられることによって有効に機能します。
- 『肝臓魂』→『魂』は『神』が変化したもので、血を物質的な基礎としています。ですので臓血機能によって肝に血液が十分に蓄えられていれば、『魂』も安定し、精神状態も良好になります。
では、臓血機能に異常が出るとどうなってしまうのか?
血液の貯蔵と血流の調節は肝が引き受けているため、体内の各部位の生理機能は全て、肝と密接な繋がりがあります。
ですから、肝に病があると臓血機能は失調し、血虚(血が不足している状態)や出血が起こるだけでなく、身体の多くの部分で血液による栄養供給不足による病変も引き起こされることになります。
具体的には次のようになります。
・肝血不足(血を各部位に行き渡らせられない)
筋→拘急や引きつり、肢体の感覚異常・痺れ、屈伸不利(屈伸しにくい)
目→両目がショボショボする、夜盲
心血不足→『魂』の居場所がなくなる
→驚き怯える、よく夢を見る(多夢)、夢遊・寝言、幻覚
月経量が減少→閉経
・肝不臓血(血を貯められない)
月経量が増加
肝気鬱血→血オ
・昇発が激しすぎる(気が上り過ぎてしまう)
→様々な出血
肝の五行従属
ここからは肝と同じ『木』に属する人体の五行の分類をお話ししていきます。
1.『怒』は肝の志
怒りは情緒が激動した時の感情変化で、不良刺激であり、気血を逆上させて陽気を昇発します。
激しく怒ると肝の陽気の昇発が過剰となって、血も共に逆上することで、甚しければ吐血が起こったり、肝の気が脾に乗じる(五行相克の『木乗土』が起こる)ことで下痢になったりします。
また、肝の血が不足してしまった場合にも陽気の昇発が過剰となってしまい、わずかな刺激でも怒るようになってしまいます。
2.『涙』は肝の液
涙は目から出て、目を潤し保護する働きを持ちます。適度な涙で眼球を潤していて、通常はこぼれることはありません。目に異物が入ると涙は多量に分泌されて異物を排除します。
肝血が不足すると、涙も分泌不足となって両目が乾いてショボショボとします。
肝経が湿熱に侵されると目やにが増加します。
3.体は『筋』に合し、華は『爪』にある
東洋医学でいう『筋』とは、筋膜や腱、靭帯、神経など『筋肉』の運動と支持の機能を持つ部位を言います。
筋の収縮と弛緩は関節の屈伸や回転を起こします。また、筋膜は肝血によって滋養されていて、肝の血液が十分にあることで筋は養われ、栄養されてスムーズに動くことができます。
身体を動かすエネルギーは、肝に十分に血が蓄えられて血流を調節する作用(疏泄作用)によって提供されます。
4.『目』に開竅する
目は晴明とも言われ、肝の経脈は上がって目に連絡しており、視力は肝血の滋養に依存しています。
また、五臓六腑の精気は全て目に注いでいるとされていて、五臓六腑と目は内在的に連携していると言われています。
肝血が不足すると、両目が乾いて物がはっきり見えなくなったり、夜盲になります。
風熱に侵されると、目に痒みを生じます。
肝気が上昇してくると、赤目(充血)・眩暈(めまい)が起こります。
肝風内動という現象が起こると、斜視(ここでは上向き)が起こって脳卒中を引き起こします。
おつかれさまでした
以上で五臓の『肝』についての解説は終了となります。
少しでも皆さんのお力になれていれば幸いです。
次回は五臓の最後の1つ、『腎』について説明していきます。
それではまた次回、お会いしましょう!
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