今回も引き続き、五臓の病証と病態と症状についてお話しします。
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『脾』の病証
まずは脾の生理機能について簡単におさらいしましょう。
1.脾の生理機能のポイント
生理機能
『運化を主る』
水穀から水穀の精微・後天の精を作る
『昇清を主る』
後天の精を肺(心・頭)へ昇らせる
『統血を主る』
血を脈外へ漏らさない
五行従属
五主→『肌肉』
五華→『唇』
五竅→『口』
五液→『涎』
五志→『思』
2.『脾』の病証のポイント
脾には『運化』『昇清』『統血』を主るという生理機能があります。従って脾の陰陽気血の失調の影響は、消化吸収・津液の運化と輸送・血の生成や固摂など多方面に渡って現れます。
・運化失調
→食欲不振・下痢・浮腫
・昇清失調
→めまい・下痢。内臓下垂
・統血低下
→血尿・血便・崩漏(不正性器出血)
・その他
→腹部の症状・四肢肌肉の症状・味覚の変化・唇の症状・思慮過度
脾の病証の診察ポイント(病位情報)
1.食後腹部の膨満感の有無 2.内臓下垂の有無
3.腹鳴の有無 4.肌肉の状態
5.食欲の状態について 6.四肢の状態
7.大便の形状について 8.腹痛の有無
9.痔や脱肛の既往歴について 10.偏食について
『脾』の各種病証
脾気虚・脾陽虚
飲食の不摂生や精神・情動などの失調、過労によって起こる病証。多くの場合は胃気虚も伴う。
脾と胃が同時に障害されることを『脾胃虚弱』といい、主に消化機能の異常が出ます。
また、脾気虚をベースとして起こる病態もいくつかあります。
・脾気虚証(八綱:裏虚証)
→運化機能の低下と気血生成機能の低下を特徴とする病証。
主な症状としては、気虚の息切れ・倦怠・無力感・脈弱と、脾の食少・食後の腹脹がある
・脾陽虚証(八綱:裏虚寒証)
→脾陽不足により温煦作用が低下し、虚寒現象が現れる病証。
主な症状としては、気虚の症状に陽虚の寒がり・四肢の冷えと、脾の腹脹・食欲不振・腹痛・喜温・喜按・大便トウ泄(薄)・完穀不化がある
用語解説
喜温・喜按→患部を温めたり、撫でたりすると症状が軽快するため喜ぶ(この場合は腹部)
なお、これらは虚証・寒証で出るが、実証や熱証の場合には、逆の意味の喜冷・拒按が出る
大便トウ泄→水っぽい大便
完穀不化→食べたものが消化されず(あるいはしきれず)に出てくること
脾気虚証と脾陽気証の鑑別
・共通点
病位→『脾』
脾の機能低下による症状
気虚による症状(息切れ・倦怠・無力感)
・相違点
気虚→倦怠・無力感が著名に出現
陽虚→寒がったり四肢が冷えるといった虚寒症状が出現
気陥・中気下陥(昇清失調)
中気下陥証(八綱:裏虚証)
→脾気虚をベースとして昇清作用の低下による内臓下垂を主とした病証。
主な症状としては、気虚の症状に加えて、気陥による胃下垂・脱肛・子宮脱、脾の下痢・腹脹・食欲不振がある
脾不統血(統血低下)
脾不統血証(八綱:裏虚証)
→脾気虚をベースとした、統血作用の低下による出血を主とした病証。
主な症状としては、気虚の症状に加えて、血便・血尿・崩漏などの各種出血、脾の食少・食後の腹脹がある
脾陰虚
脾陰とは脾血・脾の津液のこと。つまり脾陰虚とは、これらが不足している病証のことを指す。
脾陰虚証(八綱:裏虚熱証)
→脾気虚弱により鬱熱を伴い、陰液が燃やされることによって陰虚の症状が出現した病証。
主な症状としては、陰虚による五心煩熱・口乾・口唇の乾燥・舌質紅・剥落苔・脈細数と、脾の食欲不振・消痩がある
脾虚湿因
脾虚湿因証(八綱:裏虚実挟雑証)
→運化機能の低下により水液が停滞して湿となり、この湿が脾胃に停滞して起こる病証。
主な症状としては、気虚の症状に加えて、湿の停滞による舌苔膩・身体や四肢が重だるい、脾の腹脹・下痢・食欲不振がある
虚実挟雑証→虚と実が同時に存在する状態を言う
脾胃湿熱
長期にわたって脾胃に湿が停滞すると、熱を生んで脾胃湿熱を引き起こす。
また、甘いものや脂っこいものを偏って食べたり、アルコールを常飲することも湿熱を引き起こしてしまう一因となります。
この湿熱が脾胃に結すると除去しにくく、慢性症状となってしまうことが多くあります。
脾胃湿熱証(八綱:裏虚実挟雑熱証)
→湿熱が脾胃に停滞して起こる病証。本証は虚実挟雑証であるが、実証を主とする病証である。
主な症状は気虚による湿の停滞が進行し、熱化することによる脾胃の昇降失調・腹部のつかえや膨満感・食欲不振・悪心・嘔吐・体や四肢のだるさ、舌質紅、舌苔黄膩、脈滑数がある
脾虚湿因証と脾胃湿熱証の鑑別
・共通点
病位→『脾(胃)』
脾気虚と内生の湿が絡む
舌→膩苔
・相違点
脾虚湿因
→熱症状が見られない
脾胃湿熱
→熱症状が出現する(今回の場合、舌苔黄、舌質紅、数脈)
おつかれさまでした
以上で脾の病態の解説は終了とさせていただきます。
次回も引き続き五臓の病態についてお話ししていきます。
それではまた次回、お会いしましょう!
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