今回からは少々真面目な話で、11種の細菌による感染症とその症状について、まとめ形式の一覧にして解説していきます。
有名な細菌感染症
では、始めていきましょう。
猩紅熱
A群溶血性連鎖球菌(溶連菌)の感染によって発病する感染症。
現在、症例は極めて少なく、感染症法からも削除された(少なくなっただけで無くなった訳ではないことに注意)。
好発年齢は3〜12歳で、冬から春にかけて発病しやすい(最近では2018年の冬頃に流行したようです)。
飛沫感染のため、家庭や学校で感染します。
潜伏期間は2〜4日。
症状は、38〜40℃の発熱・急性上気道炎・咽頭炎・扁桃炎・嘔吐・頭痛・全身倦怠感・食欲不振を起こし、発症後、12〜24時間以内に毒素による発赤が全身にみられるようになります。
また、菌が産生する毒素によって舌にも異常がみられ、舌乳頭の発赤(イチゴ舌)や、口の周囲は青白くなり、頬や顎は赤くなる『口囲蒼白』という現象もみられます。
イチゴ舌→舌の表面が果物の苺のように見えるため、こう呼ばれる
治療後は早期に軽快しますが、再発やリウマチ熱、急性糸球体腎炎が続発する場合があるため注意が必要です。
リウマチ熱→溶連菌感染後に起こる、一種のアレルギー反応により発病。5〜15歳に多く、心炎や皮下結節、輪状紅斑、小舞踏病(小児で、手足・顔・体に踊っているような動きが、本人の意思に反してみられる症状)などがみられる。猩紅熱同様、現在は減少傾向にある
百日咳
百日咳菌の感染によって発症。
潜伏期まで含めると、治るまでに100日(13週)かかると言われることからこの名がついた。
3種混合ワクチンの接種で減少はしましたが、現在でも小児科では症例の多い感染症の1つとなっています。
潜伏期間は1〜2週間。
症状は、微熱・鼻水・咳などの症状の出る『カタル期』という期間が1〜2週間続き、その後に咳が激しく出るようになり、息を吸うときにヒューヒューと音がするようになります(吸気性笛声音)。
この時期を『痙咳期』といい、2〜6週間続いた後、1〜3週間で次第に回復していきます。
ジフテリア
ジフテリア菌によって起こる急性感染症。感染症法では2類感染症に指定される、重篤度の高い病気。
3種混合ワクチン接種によって減少し、現在では患者の発症数は年間数例程度と言われています。
飛沫感染によって感染し、気道に感染して偽膜を形成するため、診断の際は咽喉頭の偽膜を目印にします。
偽膜→感染によって粘膜が固まって壊死した際、血漿成分の1つで、血液を固める材料になるタンパク質『フィブリン』が出てきて、浸潤してきた白血球と共に凝固し、膜のようになったもの
潜伏期は1〜7日で、咽喉痛と発熱で発病。
症状は、扁桃腺が腫れて灰白色の汚い偽膜を形成、それから次第に咽頭や喉頭へと広がっていき、気道を閉塞して窒息する危険性があります。
また、菌が産生する『ジフテリア毒素』によって、心筋障害(頻脈・不整脈・心不全など)、神経障害(眼球麻痺・軟口蓋麻痺・横隔膜麻痺・四肢麻痺)が合併症として現れます。
このように酷い症状を示す感染症ですが、適切な治療を行うことで予後は改善され、死亡率は1%以下まで抑えられました。
破傷風
嫌気性の破傷風菌による急性感染症。
菌の産生する強力な毒素が中枢神経を障害することで筋の痙攣を特徴としていて、感染症法の5類感染症(見込み)に指定されています。
3種混合ワクチン接種によって減少し、現在の発症数は年間数十例ほどとなっています。
破傷風の予防のために使われているワクチンはトキソイドと呼ばれている
外傷などの傷口から感染し、破傷風菌の産生した毒素が神経の走行に沿って中枢神経へ運ばれることで発症します。
潜伏期は、受傷後4〜7日、あるいは4〜5週。
症状は、傷口周囲の筋肉の緊張と痙攣・傷を受けた側の四肢の反射亢進・下顎の筋肉のこわばり・えん下困難(物が飲み込みにくい、飲み込めない)・項部硬直・便秘・頻脈などで発症。
発症後は、『牙関緊急(顎の筋肉の強直によって起こる開口障害)』・顔面筋の痙攣による『痙笑(引きつったような笑顔にみえる症状)』・体幹と四肢の筋肉の痙攣による『後弓反張(体が弓のように反り返る症状)』などが起き、また、わずかな音や光の刺激でも筋痙攣が誘発されるようになります。
開口障害から全身痙攣に至るまでの時間が短いほど重症で、致死率は平均で50%ほど、つまり2人に1人は命を落とすと言われます。
ブドウ球菌感染症(MRSA感染症含む)
黄色ブドウ球菌や表皮のブドウ球菌による感染症のことで、皮膚や粘膜をはじめとして、種々の臓器に起こる細菌感染症としては多い部類に入ります。
抗生物質に抵抗を示す『MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)』による感染が院内感染として社会的な問題となっている。メチシリンが効かないため、バンコマイシンを使用する
黄色ブドウ球菌の感染症には、化膿性のものと毒素性のものがあり、前者の場合には、皮膚や軟部組織に膿瘍を形成し、進行すると蜂巣炎や敗血症を起こし、後者の場合には、黄色ブドウ球菌が産生する『エンテロトキシン』という毒素による毒素性ショック症候群や食中毒が問題となります。
黄色ブドウ球菌の毒は熱に強いため、仮に100℃で30分加熱しても食中毒を防ぐことは難しい
黄色ブドウ球菌感染による症状をまとめると、次の通りです。
- 皮膚・軟部組織の感染症→毛嚢炎・セツ・癰・蜂巣炎・膿痂疹などの化膿性病変を起こす
- ブドウ球菌性皮膚剥脱症候群→圧痛を伴った紅斑で発症、水疱(水ぶくれ)・表皮剥脱・びらんを起こす
- 毒素性ショック症候群→高熱・敗血症・下痢・全身の発疹性紅斑・意識障害・腎不全を起こす
セツ→ひとつの毛嚢(簡単にいうと毛穴)からできた『おでき』のこと
癰→多数の毛嚢から発生した巨大な『おでき』で、項部(うなじ)にできやすい。糖尿病の人はできやすいとされる
蜂巣炎→皮下のびまん性の化膿巣のこと
敗血症→種々の臓器に転移性の潰瘍を作り、悪寒・戦慄・関節痛などを訴える
化膿性病変は適切な抗菌薬を投与することで予後良好となるが、毒素性ショックや敗血症を起こしてしまうと、早期に適切な治療を行わなければ予後不良となります。
細菌性食中毒
細菌または細菌が産生する毒素に汚染された飲食物を経口摂取することで発症する急性の健康障害。
年間の発生数は3〜4万人前後で、中でも腸炎ビブリオ・黄色ブドウ球菌・サルモネラが上位を占める。
食中毒は発症のメカニズムごとに、次のように分類されます。
・毒素型
食品内で増殖した細菌が産生した毒素が原因で、黄色ブドウ球菌やボツリヌス菌が該当。
胃または小腸から吸収され、嘔吐中枢を刺激して発症する。
ボツリヌス菌の毒素は黄色ブドウ球菌と違って熱に弱く、80℃で30分の加熱によって無毒化されるが、摂取してしまうと神経毒が小腸から吸収され、弛緩性麻痺を起こす。
『いずし』で感染が起きたほか、真空包装食品などから広域集団感染を起こした事例がある。
これはボツリヌス菌が、生育に酸素を必要としない嫌気性菌のため、真空パックでも増殖を抑えられないことに起因しています
・感染侵入型
増殖した生きた菌が原因で、サルモネラ・腸炎ビブリオ・腸管病原性大腸菌・カンピロバクター・エルシニアなどが該当。
カンピロバクター→鶏肉や水に含まれる菌
エルシニア→豚肉に含まれる菌
腸管組織へ侵入した細菌が毒素を産生、炎症を起こすことで下痢などの腸管症状をきたす。
毒素はさらに、脳や腎臓などの臓器に障害を与えることもある
・感染毒素型
細菌が腸管内で増殖する際に産生する毒素が原因で、腸管病原性大腸菌・ウェルシュ菌が該当。
毒素によって水分や電解質の輸送障害が起こり、腸管症状が出る
いずれにも共通しているのは、嘔吐・下痢・腹痛などの胃腸炎症状で、感染型では発熱が、毒素型では潜伏期間が短く、発熱を伴わないといった特徴があります。
ただしボツリヌス菌の場合は、それらの症状よりも神経障害が主で、視力低下・複視・眼瞼下垂・瞳孔散大などの眼症状のほか、発語障害・えん下障害・呼吸困難などの球麻痺症状、唾液・汗・涙の分泌障害がみられます。
また、O-157のような『ベロ毒素』産生型の大腸菌による食中毒では、小児や高齢者の場合で腸炎の発症から数日から1週間頃に、溶血性尿毒症症候群や血栓性血小板減少性紫斑病を起こして重症になる危険性があります。
予後はボツリヌスやベロ毒素型を除けば一般的に良好。
ボツリヌスは早期に抗毒薬を投与しないと3分の1が死亡し、ベロ毒素型の場合は、上記のように重症化した場合に予後が悪くなります。
細菌性赤痢
赤痢菌の経口感染によって生じる急性大腸炎。感染症法の3類感染症に指定されている。
毎年1000人以上の発病があり、海外渡航後に発症する例も。
経口感染した赤痢菌が大腸の粘膜細胞に侵入して大腸粘膜に潰瘍を形成し、出血や粘液の過剰分泌などを起こします。
潜伏期は1〜4日。
症状は、悪寒・発熱・腹痛・下痢のほか、吐き気や嘔吐を伴うことがあり、下痢は軟便または水様便で始まり、膿や粘液、血液が混入して膿粘血便の状態になります。
予後は良く、1週間以内に回復します。
コレラ
コレラ菌による急性で致死性の下痢性疾患。感染症法の3類感染症に指定されている。
年間100人前後が発病し、海外からの輸入食品が主な原因。
水または食品を介して経口感染し、コレラ菌毒素によって小腸粘膜から水と電解質が体外へ失われます。
そのため、コレラで出てくる下痢は白く濁っていて、『米のとぎ汁様』と表現されます。
症状は激しい下痢で、脱水による電解質の異常も起こります。
適切な輸液を行えば予後は良好で、死亡率は成人で1%以下、小児で約10%と言われます。
腸チフス・パラチフス
腸チフスはチフス菌、パラチフスはパラチフスA菌による急性熱性疾患。
ヒトにのみ感染する、3類感染症。
腸チフスは年間百数十例が報告されていて、パラチフスは30〜50例程度で、そのうち40〜60%は海外での感染。
食物や水から経口摂取された細菌が小腸から侵入、腸間膜リンパ節の病変(パイエル板)をきたしてリンパの流れに乗って血液中に侵入、敗血症を起こすことで全身症状をきたします。
潜伏期は5〜15日。
症状はどちらも同じで、悪寒・発熱・全身倦怠感・食欲不振・便秘・下痢と、上腹部から胸部に淡紅色の小丘疹(バラ疹)が出現することがあります。
他にも徐脈(1分間60回以下)や肝腫大・脾腫大もみられ、合併症として腸出血・腸穿孔が起きることもあります。
以前は15〜20%の死亡率でしたが、現在は腸出血や腸穿孔による死亡率が1%となっています。
チフスの3兆候→バラ疹・脾腫大・徐脈
覚え方→バラ咲くチフス、陽が覗く。
細菌性肺炎
病原性細菌の感染によって起こる肺実質の炎症性疾患。
原因菌は、肺炎球菌・インフルエンザウイルス・黄色ブドウ球菌などとされます。
飛沫感染によるものとされるが、かぜ症候群などから2次的感染で起こることが多い。
高齢者に多く、また、死亡率も高い。
症状は、悪寒発熱・湿性の咳・痰・呼吸困難があります。
肺炎で胸痛は現れません。肺や気管支には痛覚に関係する神経がないためです。胸痛がある場合には、胸膜炎の合併が疑われます
湿性咳→気道の炎症によって、分泌物が過剰に生産されるために起こる咳。痰が絡んでいる時に出る咳と考えるとイメージしやすい
痰→この場合は黄緑っぽいような色をした膿性痰や、それに血の混じった鉄さびのような色をした痰などが出る
治療には、肺炎球菌の場合ですが、ペニシリン系の抗菌薬を投与します。
ペニシリンは、最近アニメ化もされたジャンプ漫画『Dr.STONE』で、コハクの姉であるルリの肺炎の治療のために、主人公の千空が作った薬ですね。
厳密には『サルファ剤』と呼ばれる、ペニシリンよりも製造が簡単な方の抗生物質でしたが。
なおペニシリンは、人類が発見した最初の抗生物質とも言われています。
このように適切な抗菌薬を投与できれば、数日で症状や炎症所見は改善して、治癒後の経過は良好となります。
ただし高齢者の場合には、痰を出せないことによる呼吸不全や、ショック症状の合併などで重症化の危険性が高くなります。
肺結核
日本の国民病として認知されてきた重要な感染症で、結核菌を吸い込むことで起こる。
通常は重篤な免疫低下がない限り、発病する確率は約10%と低い。
しかし日本は他の先進国に比べても結核患者が多く、その減少率に鈍化がみられ、平成9年には一時、増加に転じている。
年間3万5000人が新たに結核の診断を受けている。
咳などの飛沫で感染。
空中をおよそ30分も漂うため、現在では空気感染にも含まれている
結核は感染してから、体の持つ抵抗力との兼ね合いで、経過が次のように変わります。
・初期変化群
結核菌の初期感染の状態で、体に初めて結核菌が入った時に起こる反応。
肺の中に初期感染巣を作る。これは重力の関係から、肺の下葉に多くみられる。
肺はひとかたまりでなく、部位が分けられている。右は上葉・中葉・下葉に、左は上葉と下葉に分けられる。これは左肺の方には心臓があるので、少し小さくなっているため
同時にリンパの流れに沿って広がっていき、肺門リンパ節を腫脹させる。
肺の初期感染巣+肺門リンパ節腫脹を合わせて初期変化群と呼ぶ。
多くの場合はここから発病へは至らず、石灰化を残して治癒する
・1次結核症
初期変化群が治癒せずに、そのまま進展した状態。結核の発病を意味する
・2次結核症
初期変化群を形成して発病しなかったものが、一定の期間を経た後に発病したもの。
これは何らかの原因で免疫力が不十分となった際、初期感染巣の中で生き残っていた菌が再燃することで発病する。
初期感染巣から気管支内に吸入された菌は、肺内に2次的病巣を形成する。これは肺尖部に多い。
肺には肺尖部と肺底がある。肺尖部は鎖骨の上方に2〜3cmほど出ている部位で、肺底は横隔膜に接している部位
この病巣は、大きくなると中心部が空洞化する。
1次結核症と同様に、血液の流れに沿って結核菌が全身に伝播する『血行性播種』を起こし、粟粒結核症に発展することもある
粟粒結核症→肺全体、血行性に全身臓器に小さな結核病巣が多数形成される状態のこと
臓器結核→全身に播種した結核菌が、腎臓や骨など全身臓器に限局的に結核病巣を作る
瘰癧→頸部リンパ節が結核で多数腫れ上がったもの。脊椎カリエスなどがある
狼瘡→皮膚の結核
冷膿瘍→通常の化膿巣は炎症で熱を持つが、結核の場合は冷たいままである
症状は、咳・痰・発熱と一見するとかぜのような症状ですが、3週間以上持続する場合は肺結核を疑います。
有名な検査として、ツベルクリン反応があり、これが陰性だとワクチンであるBCG、いわゆるハンコ注射を打つことになります。
BCGは菌の毒性を弱めた生ワクチンで、これで体内に免疫を形成します。
この免疫は15年ほど有効で、切れても青年や成人には予防効果がないそうなので、打ち直す必要はないとのこと。
結核は、規則正しく薬を服用していれば、再発する危険性は2〜5%ほどと言われていて、再発も2年以内の場合が多いとされます。
しかし今、結核菌に対して『多剤耐性結核菌』という、薬に対して強い抵抗力を持った菌が存在することが問題となっています。
余談ですが、私はBCGを打っていないような気がします。
小学校に入ってからツベルクリン検査をしたのが、おぼろげに記憶にはあるんですよね。
クラスの何人かがハンコ注射を受けていたなぁと記憶してます。
最後に
これで主要な細菌感染症の解説は終了させていただきます。
少し固い文になってしまいましたが、有名な感染症について知りたい方の一助となれば幸いです。
次回はウイルス感染症などについてお話しする予定です。
それではまた次回、お会いしましょう!
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