今回は六腑について、各病証の原因と症状についてお話ししていきます。
六腑の病証
胆
胆の生理作用のおさらい
・胆汁の貯蔵と排泄
→肝が作った胆汁を貯め、小腸に排出して消化を助ける
・決断を主る
→肝が巡らせた考えを胆が決断する
胆の病理(表裏関係である肝の病とされることが多い)
胆の機能が失調すると、主として胆汁分泌・貯蔵・排泄障害、決断力の障害が起こる
・胆汁分泌・貯蔵・排泄障害が起こる
→運化作用に影響・黄疸
・決断を主る機能が失調
→不機嫌になる・驚きやすい・不安感・多夢
・胃に影響
→胸脘部に満悶感・脇部の痛み・曖気(ゲップ)・悪心・嘔吐など
・心神に影響
→心煩(胸のあたりに熱感)・不眠
・湿熱が上逆
→口が苦い・脇痛
・湿熱が下注
→陰嚢部が湿っぽい・小便が混濁・外陰部のかゆみ・黄色くてにおいのある帯下(おりもの)
胃
胃の生理作用のおさらい
・水穀の受納・腐熟を主る
→飲食物を受け入れ、ドロドロにして溶かす
・通降を主る、降を以って和とする
→消化したものを小腸へ降らせることで再び飲食物を受納できる
胃の機能が失調すると、主として受納・腐熟機能の障害、和降の状態の失調が起こります。
胃気虚損
胃の機能が低下した病的状態
原因
・長期間の飲食の不摂生
・久病による胃気の損耗
・先天的な胃の虚弱
症状
・受納と腐熟の低下
→食欲不振・飲食無味・胃部の膨満感
・和降が不調
→胃カン部の脹痛
・胃気が降りない(上逆)
→悪心・嘔吐・曖気・呃逆(しゃっくり)
胃寒内生
冷たいものの過食・寒涼剤を過剰に服用など、胃陽を損傷した状態
原因
・冷たいものの過食
・寒涼剤(漢方では熱症状を下げる治療薬など)の過剰服用
・普段から陽虚
症状
・腐熟の低下
→消化が悪くなる
・気滞、血瘀
→胃痛(冷えのため、灸などで温めると軽減)
胃火上炎
胃の鬱熱が盛んになり、胃で生まれた火が経に沿って上衝(上昇)するものをいう
原因
・温邪の熱
・胃熱(辛いもの・脂っこいもの・味の濃いもの・アルコール)
・肝鬱化火の影響
症状
・腐熟機能亢進
→胸焼け・消穀喜飢(食べてもすぐにお腹がすく状態)
・胃中の津液を損傷
→強い口渇・大便秘結
・和降を失調
→悪心・酸苦性の嘔吐
・胃火の上炎
→歯肉の腫脹やびらん、出血(現代の歯周病のイメージ)
胃陰不足
胃の陰液が不足し、栄養と潤いを失って生じる病態
原因
・温熱性の邪熱が取れない
・気が鬱し火となる
・摂食習慣の影響
症状
・胃気上逆
→乾嘔(声だけで吐かない嘔吐)・しゃっくり
・受納と腐熟の低下
→食欲不振・空腹感はあっても食欲がない
・虚熱内生
→胃部焼灼感・口内炎
・和降を失調
→胃部の膨満感
胃絡オ滞と損傷
オ血が胃の脈絡に阻滞することで起こる病理的変化のことを言います。
オ血は有形の邪気で、胃カン部の疼痛が主症状となり(刺痛・固定痛・拒按)、食後に疼痛がひどくなることがあります。
舌質紫暗・脈は細渋・長期化して脈絡を損傷すると、吐血やタール状の便を伴います。
小腸
小腸の生理作用のおさらい
・受盛の官、化物の出るところ
→胃が消化した飲食物を受け取り、小腸内に長く留め消化吸収する
・清濁の泌別を主る
→飲食物を精微と糟粕に分け、必要な精微と水分を吸収して残った水分と糟粕を大腸へ送る
小腸虚寒
小腸の虚寒は小腸の消化機能の減退・清濁の泌別機能の減退という形で現れる
原因
・寒邪の侵入
・腎陽不足のために温煦作用が低下
症状
・泌別低下
→腹痛・腹鳴(ゴロゴロと音がする)・上吐下瀉
・受盛の低下
→食後疼痛・泄瀉・嘔吐
・消化などが低下
→未消化物の下痢
小腸実熱
湿熱が小腸や手の太陽経にこもったり、心経の火熱が循経により小腸に影響(心と小腸は表裏)して起こることが多いとされ、小便赤・排尿時の熱痛・小便混濁などの症状を伴います。
大腸
大腸の生理作用のおさらい
・糟粕の伝化→小腸から送られた糟粕から水分を吸収し、便として体外に排泄する
大腸の病証は主として伝化機能の失調で、便通の異常が起こります。
大腸の乾燥・津液不足あるいは陽気虚弱による推動機能低下などによって大便燥結・便秘などが起こります(ここへ、大腸と表裏関係にある肺の粛降作用の失調や胃気和降の失調が加わると、さらに増悪します)。
食滞(食べ物が消化されず胃に留まってしまう)が生じたり、寒湿や湿熱が大腸へ下注すると、泥状便や泄瀉などの症状が現れ、脾胃虚弱・腎気不固が大腸に影響すると、久泄・大便失禁・脱肛などの症状が現れます。
膀胱
膀胱の生理機能のおさらい
・貯尿と排尿→尿を留めたり排出する。これらの機能には、表裏の腎の気化作用の関与が大きい。
膀胱の病証には排尿異常が現れます。
腎の陽気が不足して膀胱の気化機能が悪くなると、排尿不利・尿閉などが現れ、腎気不固のために腎の気化作用が失調し、膀胱の閉蔵機能が悪くなると、遺尿(おねしょ)・小便失禁などの症状が現れます。
湿熱がこもって津液に作用すれば石淋(結石)を、湿熱あるいは砂石が膀胱の血絡を損傷すると、血尿あるいは血淋を引き起こします。
三焦
三焦の生理機能のおさらい
・諸気を主宰し、全身の気機と気化作用を統括する
→三焦は気化が行われる場所で、気の昇降出入の通路とされる
・水液運行の通路
→疎通水道・水液運行の作用から、水液が昇降出入する通路とされる
※三焦は上証・中焦・下焦の総称であり、胸腹腔全域に分布する大腑
三焦には多くの働きがありますが、病気としては『水液運行の通路』として三焦の水道が不通になると、肺・脾・腎などの水液の輸送・散布・調節機能にも影響が及び、水液が貯留して、小便不利・水腫といった症状が現れるとされています。
参考:三焦の区分と機能特性
・上焦
横隔膜より上部を指し、心・肺および顔面部を含めて上焦という
生理機能特性としては、気の昇発と宣散を主る
・中焦
横隔膜以下で臍より上の腹部を指す
生理機能特性は、脾胃の運化を包括し、水穀を腐熟して精微物質を蒸化し、気血津液を化生することにある
中焦は昇降の要、気血生化の源とされている
・下焦
臍より下の部分と、その部位にある小腸・大腸・膀胱などを指す
生理機能特性は、糟粕と尿の排泄である
その他、肝腎(精血)や、命門元気も下焦に属する
おつかれさまでした
以上で六腑の病証に関する解説は終了になります。
次回は一度、診察編をお休みにして、別の項目の解説をしたいと思います。
それではまた次回、お会いしましょう!
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