今回も引き続き、五臓の肝の病証についてお話していきます。
前回はこちら↓
肝の病証
毎回のことですが、まずは肝の生理機能について簡単におさらいしましょう。
1.肝の生理機能のポイント
生理機能
『疏泄を主る』
気機の調節→気を昇らせる(昇発)のは肝、気を降ろす(粛降)のは肺がそれぞれ担当している
運化を促進(脾胃・木克土の関係)し、胆汁を生成。
情志の調節
『蔵血を主る』
血(肝陰)を貯蔵し、安静時には肝を滋養する
血の量を調節し、活動時には筋などに送る
五行従属
五主→『筋』
五華→『爪』
五竅→『目』
五液→『涙』
五志→『怒』
肝気(肝陽)は疏泄を主っており、気機の調節や情志の調節を行い、脾胃の活動(昇清降濁)を助けています。また肝気は全身の筋腱の屈伸運動を主ります。
肝気を病理の観点から見ると、亢進しやすく横逆しやすく鬱滞しやすいという特徴があり、肝血(肝陰)は肝を滋養し、肝陽が亢進しないよう制御しています。また肝血は目や筋腱が正常に機能するよう滋養しています。
肝の病変には肝気の疏泄機能の失調・肝血の滋養機能の低下・肝の陰陽の制約関係の失調があり、肝気(肝陽)は多くなりやすく、肝血(肝陰)は不足しやすいという特徴があります。
なお肝の病証の症状は多岐に渡るので、ここではポイントは表記せず、その都度書いていきます。
肝の病証の診察ポイント
1.めまいの有無 2.目の症状の有無
3.胸脇部の症状 4.飲酒について
5.口苦の有無 6.血圧について
7.イライラ・易怒の有無 8.爪の観察
9.痺れや痙攣の有無 10.涙について
肝の各種病証
肝気の失調(肝気鬱結)
肝気の失調は、気虚としての出現よりも気の有余として出現し、さらに精神状態にも影響して悪循環を形成します。
肝気鬱結証(気滞)→肝の疏泄機能の失調で起こる病証。精神的ストレスや長期に渡り気分が塞いでいると起こりやすい
・主な症状
気滞→膨満感・脹痛。疼痛部位や疼痛の程度は一定しない(肝は木の属性で動きやすいため)
好発部位は胸脇部・乳房・胃脘部
特徴として、情志の変化で増悪し、曖気(ゲップ)や失気(オナラ)で軽減する
疏泄失調
→肝経走行部の脹痛
→胸脇部・乳房・胃部・少腹
→情志の失調
不及(及ばない)→精神抑鬱
太過(行き過ぎる)→イライラ・怒りやすい
→衝任失調(衝脈任脈に影響)
→月経異常
→十痰(気鬱と痰が結すると出現)
→梅核気(ヒステリー球とも。喉に何か引っかかっている感じがするが出てこないこと)
肝火上炎
肝火上炎証(八綱:裏実熱証)→疏泄の失調などで肝火が旺盛となり、上部に上炎する病証。
酒やタバコのほか、辛いものを過度に食べたりすると起こります。
・主な症状
実熱→口渇・身熱・顔面紅潮・小便黄・舌質紅・舌苔黄・脈数有力
肝 →目の充血・耳鳴り(高音、キーンとするような)・難聴・頭頂部の痛みが起こりやすい
なお肝火が『心』に及べば心志に影響し(心肝火旺)、『肺』に及べば咳が出る(肝火犯肺)
肝血虚
肝血虚証→肝血の不足により、筋・目・爪の栄養障害や月経異常などが現れる病証。
血の生成不足や過度の出血、慢性病による肝血の消耗などが原因で引き起こされます。
・主な症状
血虚→顔面蒼白・めまい・舌質淡・脈細
肝 →筋の痺れや震え
爪の色が淡
目の霞みや乾き
月経に関して
→経少(量が少ない)・経遅(遅れる)・閉経(3ヶ月来ない)
また、肝血が不足することで心血も不足となり、めまいや不眠・多夢も現れる
肝血虚証と肝陰虚証の鑑別
・共通点
病位→『肝』
陰による滋養不足の症状(目の乾き・動風所見)
・相違点
血虚→顔面蒼白・舌質淡
陰虚→潮熱・盗汗・舌質紅・脈数+熱による所見(五心煩熱など)
肝陽上亢証
肝陽上亢証(八綱:裏虚熱証)→陰虚によって肝陽が亢進し、引き起こされる病証。
肝鬱や肝火から進行して起こる場合や、肝腎がともに陰虚となってしまうことで陽を抑えられずに起こってしまう場合があります。
・主な症状
陰虚→五心煩熱・盗汗・舌質紅・脈細数
肝 →めまい・頭痛・耳鳴り・目の充血・易怒
加えて『腎』の症状も起こる。
肝陽化風証
肝陽上亢がさらに亢進して起こるもので、陽の亢進により『生風』となる病証。
他の原因としては、肝腎の過度の陰虚によって陽を制御できなくなる、血の不足による筋の栄養不良などがあります。
ちなみに肝の生む風は脳卒中を引き起こすとも言われています。
・主な症状
陽亢風動(肝陽亢進症状)→めまい・頭痛(どちらも激しいもの)
筋脈失養(血不足で栄養できない)→四肢の痺れや震え・動揺
おつかれさまでした
以上で肝の病態の解説は終了とさせていただきます。
次回は五臓の病態の最終回になります。
それではまた次回、お会いしましょう!
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