今回は鍼灸治療で使う様々な鍼の種類について解説していきます。
また、私が実際に治療や実習で使用したものについての感想なども載せています。
鍼について知りたいと思っている方の、何かの助けになれれば幸いです。
鍼の基礎
まずは鍼の基礎を知っていきましょう。
鍼と鍼管について
現在、日本で一般的に使われる鍼の種類は『毫鍼』と呼ばれています。
毫鍼→古代九鍼の1つ。毫毛にのっとり、先が蚊や虻の喙のようになっているのが特徴
では、その毫鍼について見ていきましょう。
毫鍼の各部の名称
1.鍼柄(軸または竜頭ともいう)
鍼の弾入時に叩いたり、刺入や各種術式(手技)を行うためのもので、抜刺の際に術者が摘まむ部分でもあります。長さや太さは、基本的にメーカーによって変わります。
弾入→鍼を刺すために鍼管の頭を示指で叩く。これにより切皮を行い、鍼を皮下に侵入させることができる
2.鍼根(鍼脚ともいう)
鍼体が鍼柄に組み込まれる部分で、最も折れやすいところです。ハンダ付けまたは電気溶接で付けられますが、最近では『カシメ式』という、熱や引きに強いものが一般的となっています。
3.鍼体(穂)
鍼根から鍼体にかけての部分で、身体に刺入される部分です。
4.鍼尖(穂先)
弾入時は皮膚を切る部で、流派などでその形状は異なっています。鍼を滅菌して繰り返し使用する場合は、刺入時や操作時に摩滅や欠損が起こるので、昔は顕微鏡で見て研磨する必要がありましたが、最近ではディスポーザブル鍼の登場で、その機会はなくなってきています。
現在日本で使われている鍼尖の形状は『松葉型』という、刺入しやすく刺入時の痛みも少ない型が主流となっています
鍼管について
鍼管は『管鍼法』という鍼の刺入方法で使用します。
管鍼法→鍼の長さよりもやや短い管に鍼を入れ、わずかに出た柄の部分を叩打することで刺入を容易にしたもの。片手挿管と両手挿管があるが、一般的には片手挿管を用いる
管鍼法は、江戸時代に杉山和一という人物によって広められたと言われ、現在の鍼灸師の多くはこの管鍼法を用いて鍼の刺入を行なっています。当然、私もこの方法を使っています。
素材はステンレスが一般的で、これはコスパが良く、滅菌にも耐えられるからとの理由です。
ですが最近はディスポーザブル鍼が出てきたことで、それに伴って使い捨て可能な硬質プラスチック製の鍼管が作られ始めました。
実際に私が使用したことのある鍼
さてここからは、私がこれまでに臨床または鍼灸学生時代に使用したことのある鍼についてお話しします。
また、補足として、古代中国で使われていたとされる鍼などもご紹介したいと思います。
銀鍼
私が鍼灸学校に入って初めて使用し、学生時代にメインで使っていた鍼です。実習では主に、経絡治療の際に使用しました。
私は経絡治療が個人的に好きなので、いつか治療院を開設できた時には、この治療をメインにしたいと考えています。
素材はもちろん銀で、柔らかいので少し加減を間違えたり無理な力が加わると、すぐに曲がったり折れたりしてしまいます。なかなか曲者なんですよね。柔らかいだけに。
EOG滅菌することで繰り返し使用できるのが特徴で、酸化による腐食が出るまで(私はだいたい5回くらい)は使っていました。
それから使い続けると鍼尖が磨耗するので、切皮時の痛みが強くなります。そうなるのもまた、5回ほどの使用が目安です。
EOG→エチレンオキサイドガスのイニシャルを取ったもの。大抵の生物(細菌・ウイルス問わず)を死滅させることのできる有毒ガス。もちろん私たち人間や動物にも有害。
なお鍼灸整骨院だったために、臨床の現場では残念ながら使う機会は無かったです。
参考:銀鍼(私が学生時代に所持していたもの。画像では見えませんがすっかり酸化して錆びついているため、治療に使うことはできません)
この銀鍼ですが、最初はトイレットペーパーや、自宅から持っていった野菜などに刺して練習しました。
トイレットペーパーは1ロール丸々、ガワから芯まで旋撚(左右に鍼を捻って)で貫通させろとか入学早々にムチャクチャ言われたのでクラス全員必死になって、他にも座学での骨のスケッチなどもある中、1ヶ月近くかけて、空いた時間に頑張ってました。
でもそのおかげで、利き手の親指の旋撚の動きはなかなかの速度になっていると思います。
あと野菜ですが、チコリーなんて、なかなか見る機会のない野菜をわざわざ実家から持ってきたクラスメイトがいましたね笑
私はそこで初めてチコリーを見ました。ちなみにチコリーとは、爽○美茶に入ってるアレですね。
ステンレス鍼(ディスポーザブル鍼)
これは臨床に出てから、それこそずっと使用していた鍼になります。
おそらくですが、現在最も臨床で使用されている鍼ではないでしょうか。
私自身、現在でも鍼治療をする際は、この鍼を使用しています。
素材はステンレスで、3種ある基本の鍼の中では最も耐久性が高いですが、柔軟性や弾力性は劣ります。
ステンレス鍼は曲がりにくい特徴があるので、銀鍼に戻ったら怖いところです・・・笑
基本的に1回限りの使い捨ての鍼になりますが、代わりにコスパはかなり良好です。
また熱に強く酸化しにくいため、灸頭鍼や鍼通電治療にも使用されます。
学生時代にも鍼通電の実習で使いました。
参考:ステンレス鍼(これも私が現在所持しているものですが、メインで使っている鍼は別にあります。)
金鍼
実際に使用したことがあると言いましたが、この金鍼に関しては、使用したことのない鍼になります。解説の都合上、ここでお話しするしかなかったのでご容赦ください。
金鍼は、鍼の金属刺激に弱い患者さん(例えば金属アレルギーが出てしまう方)に対して有用で、素材は言うまでもなく金です。
ただし銀鍼に比べてさらに耐久性に劣り、コストも割高で、おいそれとは使えない鍼になります。
ちなみにこれも、EOG滅菌で繰り返し使用できます。
私は金鍼を実際に使用していないので、正確なところはわかりませんが、銀鍼よりも少ない回数(3回くらい)での交換をしなければならないと考えています。
なお金鍼は所持していないため、参考画像をお見せすることができません・・・。
鍼の長さと番号(太さ)について
鍼にはそれぞれ、長さと太さの番号がついています。
基本的に太くなればなるほど、番号は上がり、刺激は強くなります。長さは刺入深度に関係してきます。
太い鍼は腰など、細い鍼では刺激が弱く、曲がったり折れたりしやすいような箇所に対して使用します。
ただ、日本で一般的に使われているこれらの鍼は、中国鍼に比べると圧倒的に細いのが特徴です。
私の学生時代に、中医学を専門(もちろん日本の鍼治療もできます)とする先生がいましたが、実際に中国鍼を見せて触らせてもらったことがあり、『こんな太いので刺したら絶対痛いしヤバイだろ!』と思わされました。
中国の鍼は日本と比べると、刺すのもやっぱり痛いらしいです。実際、刺し方も全く異なっています。
日本が一般的に『管鍼法』で刺入の際の刺激を和らげているのに対して、中国はダイレクトです。
『撚鍼法』といって日本の鍼灸にもあるのですが、患者の肌に直接、鍼を立てて刺入します。
鍼の長さに関しては治療部位で変わりますが、ごく一般的に使用するのは『1寸3分(40mm)』で、腰ではやや長めの『1寸6分(50mm)』や『2寸(60mm)』を使用します。
しかし殿部など、目的とする筋や神経が深い位置にある場合には『3寸(90mm)』の鍼を使用することもあります。
私も学生時代の実技で殿部への刺鍼の練習に使用したことがあり、初めて見た時は、こんなに長い鍼もあるのかと驚いたものです。
ちなみに太さも基本的には長さに比例するので、寸3の鍼が『2番(0.18mm)』や『3番(0.20mm)』の太さなのに対して『5番(0.24mm)』と太くなっています。
なお先ほど話題に挙げた中国鍼ですが、こちらは番号が小さくなると太くなるので、1番太いもので『26番(0.45mm)』になっています。1番細くても『0.22mm』と、日本の4番鍼ほどです。
その他の特殊な鍼について
次は今紹介した以外の鍼や、鍼通電などの特殊な治療法についてお話しします。
小児鍼
小児鍼は鍼を刺入することなく、皮膚刺激を目的とした鍼になります。
種類は様々で、接触や摩擦での刺激を主とするものが多いです。また、最近では子供が怖がったりしないように可愛らしく作られたものもあるそうです。
対象となるのは、生後2週間から小学生くらいまでで、自律神経系など成長過程で見られる身体バランスの崩れによる症状に適応します。
治療の際は経絡経穴にこだわらず、体の広範囲に接触や摩擦の刺激を与えます。
夜泣きや不機嫌・カゼ・扁桃腺・下痢・便秘・消化不良など、様々な症状に効果を発揮します。
皮内鍼・円皮鍼
これは赤羽幸兵衛という人物の発案で、細く短い(3〜7mm)の鍼を筋層へ刺入せずに皮内に水平に刺入して長時間留めておいて、持続的な刺激を与えるものです。
鍼柄は体内に入ってしまわないよう、円形だったり板状になって工夫されています。
私も実際に学生時代に練習し、臨床でも使用したことがあります。皮下なので刺した痛みもほぼ感じません。
痛みに対して使用される鍼で、数は多くは打たず、治療の最後に付けるのが一般的です。
円皮鍼も似たようなもので、こちらはスポーツ競技者に用いられることが多く、競技中の筋痛や筋疲労に効果があるとされています。
なお中国では、耳鍼などにも使用されるようです。
灸頭鍼
置鍼した鍼の鍼柄に艾を球状に取り付けて燃焼させて鍼の機械刺激と灸の温熱刺激を同時に与える治療法です。
鍼は艾の重量を支え、皮膚との距離を保つために、適当な太さと長さのものを使用する必要があります。
肩こり・腰痛・下痢や下肢の冷えなどに効果があります。
意外とこの艾って、鍼柄にガッチリとくっついてくれるんですよね。
低周波鍼通電療法
刺入した鍼に電極を取り付けて低周波を通電する治療法で、中でも鍼麻酔は代表的なものとなっています。
ですが基本的には筋の機能回復や神経を狙っての治療となり、顔面麻痺や坐骨神経痛などにも効果を発揮します。
鍼は通電による腐食を考慮して、3〜5番鍼を使用します。
実習では狙った筋を取るのに四苦八苦しながら練習したものです。
テイ鍼
古代九鍼と似たようなものが今でも使用されていて、様々な材質で作られ、スプリング式のものもあります。いわば小児鍼の大人用といったもので、鍼刺激に敏感な人や、鍼を刺されることに抵抗感のある人に用いられています。
参考:テイ鍼(私の所持しているもので、左がスプリング式、右はメッキの施された金属製のものです)
刺絡
血絡や井穴あるいは皮膚に、三稜鍼を刺して血液を出し、治療を施します。
高血圧や肩こり・腰痛などに効果がありますが、感染や事故の防止には万全を期さなければなりません。
刺絡はここまでに紹介した特殊な鍼と異なり、授業で話を聞いただけで実習ではやりませんでした。
古代九鍼について
今回の最後に、古代九鍼について軽く紹介させていただきます。
古代九鍼は中国で約2000年前に使用されていたという鍼で、その名の通り、9種類あります。
1.ザン鍼
熱が頭身の皮膚にあり、あちこち動く時、その陽気(熱)を消す目的で使用します。なお、皮膚の白い部分には使ってはいけないとされています。
2.員鍼
刺入はせずに皮膚を擦ることで気を瀉します。
3.テイ鍼
刺入はせずに、手足末端近くのツボの脈を按じて気を補ったり、邪を出させます。
4.鋒鍼(三稜鍼)
頑固な痛みや痺れ、できものがあるとき、手足末端のツボや局所を瀉します。
5.ヒ鍼
膿などを切り開くために使用します。
6.員利鍼
急激な痛みや痺れに対して深く刺して、それを取るために使用されます。
7.毫鍼
静かにゆっくり、少しずつ刺し進めて、目的の深さでしばらく留めて寒熱や痛痺(痛みや痺れ)を取るために使用されます。
8.長鍼
古代九鍼では1番長く、深い邪や痺を取るために使用されます。
9.大鍼
関節に水が溜まって腫れているとき、瀉すために使用します。
これらのうちで現在最もよく用いられるのは毫鍼です。
それは深く刺すだけではなく、皮膚を対象にして接触や摩擦をすることで、員鍼やテイ鍼の代用になるばかりか、太さや長さを変えれば長鍼や大鍼の代わりにもなって、応用範囲が広いからとされます。
古代九鍼の役割ごとの覚え方
古代九鍼には破る鍼、刺入する鍼、刺入しない鍼といった役割がそれぞれにあります。
ここで現役の鍼灸学生の方向けに、グループごとの覚え方をお教えして今回の締めとしたいと思います。
1.破る鍼
→ザン鍼・鋒鍼・ヒ鍼
→秘宝山を破る
2.刺入する鍼
→毫鍼・員利鍼・長鍼・大鍼
→強引に侵入してちょうだい
3.刺入しない鍼
→員鍼・テイ鍼
→庭園に侵入せず
おつかれさまでした
これで鍼に関するお話は終了とさせていただきます。
次回は灸についてお話しします。
それではまた次回、お会いしましょう!
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