今回は真面目なお話になります。
鍼灸治療において危険とされるリスクの管理をきちんと把握しておくことは、事故の防止にもつながり、ひいては患者さんが離れてしまうことを防ぐことにもつながります。
今日はその中から9つ、お話しします。長くなりますが、しっかりとお読みください。
鍼灸治療におけるリスク管理
鍼治療での過誤と副作用について
これまで治療においては鍼も灸も、副作用がなく安全と言われてきました。
ただし、あくまでも適切な方法で治療を行えていればの場合であって、実際のところは副作用や医療過誤などの報告の事例もあるといいます。
例えば折鍼事故、埋没鍼、気胸、抜鍼困難、内出血、脳貧血などがあり、中には誤診や誤判断、西洋医学的な大病(癌など)を見抜くことができず、医療機関の受診を勧められなかった結果、患者さんの命に関わってしまうような責任問題に発展することもあります。
そういったことを回避する意味でも、術者はしっかりとこれらの知識を頭に入れておかなければなりません。
気胸
鍼治療の医療事故として最も気をつけておきたいのが気胸です。
気胸は一般的には肺そのものに空気が入ると思われがちですが、実際には肺を包んでいる胸膜腔内であることが多いといいます。
原因と症状は?
次の3種類に大別されます。
- 肺に疾患のない、痩せた背の高い人に好発しやすい『自然気胸』
- 交通事故などの外傷による『外傷性気胸』
- 針穿刺や針生検などで起こる『医原性気胸』
このうち鍼灸で起こるのは医原性気胸です。
鍼灸の場合には、前胸部や側胸部、肩背部付近への鍼の深刺によって起こり、女性に多く起こるとされています。
症状は胸痛・チアノーゼ・咳・労作性呼吸困難があります。
チアノーゼ→酸素が足りず、皮膚や唇などが青紫色になること
労作性呼吸困難→呼吸の時に、努力感や空気不足感を伴うこと。この場合、治療を始めてから明らかに呼吸が苦しそうになったならば、そう判断できる
予防するには?
胸部の解剖学的な構造を理解していることは当然で、その知識をもとに刺入深度を調整します。
女性では第2・3肋骨部位で肋骨が薄いため、これも注意が必要です。
他にも患者さんの体格を考慮したり、肋間など刺入の部位によっては斜刺・横刺とすることが挙げられます。
また、術者自身が鍼の先から伝わる感覚によって、刺入している鍼の周囲の状況を把握することなども予防に繋がります。
もし患者さんから痛みの訴えがあった時は、即座に刺入を中止するようにしましょう。
もしも気胸を起こしてしまったら・・・
気胸が起きた時は、まずは自身が落ち着きましょう。
鍼で起こった気胸は、軽度な場合は自覚症状も少ないため、安静にしていれば自然に胸膜腔内の空気は吸収され、治癒する場合が多いとされます。
これは注射針と違って、鍼灸の鍼は極めて細いことが理由の1つです。
ですので、まずは患者さんをベッドに寝かせて安静を指示し、様子を見るようにしましょう。
数時間が経過しても症状が酷くならないようであれば、帰宅させて安静にするように指示します。
安静にして症状が酷くなってくるようであれば、医師に治療を依頼します。
どちらの場合でも、患者さんには現在の状態をしっかりと説明することが必要です。
折鍼
気胸よりも、ある意味では起こり得る可能性の高い事故です。
故意(埋没鍼)または不注意によって鍼が折れてしまい、それが体内に残ってしまうことをいいます。
埋没鍼→ツボに対して意図的に鍼を埋め込み、それを折って体内に留めて、ツボの永久的な刺激を期待する治療法
この残った鍼は厄介者で、体内を移動して内臓や脊柱に混入したり、神経障害をもたらしたりすることがあります。
実際、そういった裁判も行われ、いずれも鍼灸師に対して責任を追及しています。
そういった背景から、現在、埋没鍼での治療は禁止され、行われていません。
原因は?
低質な鍼の製造技術や、鍼体と鍼柄の接触部分の腐食によるもの、滅菌後の繰り返しの使用による耐久度の低下が多いと言われ、中でも銀鍼による折鍼事故が多いとされます。
他にも鍼通電治療でも、直流電流を用いると鍼が折れやすくなると言われています。
ですが最近の低周波鍼通電治療の器具は交流電流を使用しているため、その危険性は低くなっています。
また、患者さんが刺鍼中に不用意に体を動かした際に強い筋の収縮が起こり、それによって鍼が曲がったり抜けなくなったりすることがあります。
これを慌てて抜こうとしたりすることで、鍼が折れてしまうのです。
予防するには?
予防には次のようなことを意識しておきましょう。
- 滅菌による鍼の反復使用を避ける。反復使用するのであれば、使用前に鍼の状態をよく確認しておく。
- ディスポーザブル鍼を使用する
- 鍼の操作時に無理な力を加えないこと(鍼が曲がるのを防ぐため)
- 刺鍼中に鍼が曲がってしまったら、抜鍼して新しい鍼を使う
- 鍼根部分は折れやすいので、刺鍼の際に3分の1程度は刺入しないでおく
- 患者さんに不用意に動かないよう指示しておく
以上を適切に行うことで、ある程度の予防は可能です。
もしも折鍼が起こってしまったら・・・
折鍼を起こしてしまった時も、まずは自身が落ち着くことが先決です。
それから患者さんに状況を伝え、落ち着かせて動かないように指示します。
刺鍼していた部位を探して、鍼が見つかったらピンセットでつまんで引き抜きます。
ピンセットで摘まめない場合でも、鍼が見えているのであれば、周囲の皮膚を優しく押さえて鍼の断端が出てくるのを待ち、それからピンセットで抜きましょう。
これらの処置をしても鍼が抜けない場合には、医師による外科的な処置が必要となります。
抜鍼困難(渋鍼)
これもある意味では気胸よりも起きやすいかもしれません。
鍼を刺入した後、回旋や雀啄などの手技ができなくなり、抜鍼が難しくなってしまう状態です。
原因は?
患者さんが急に動いたり、それによって発生した痛みによる筋収縮で、鍼が曲がってしまったり、固定されてしまうことで起こります。
ところで皆さんは、筋繊維あるいは神経を実際に見たことがあるでしょうか?
私は解剖学実習で、札医大の生徒さん達がご検体を解剖する様子を見させてもらったことがあります。
神経って白いんですよ。神経叢だと幾つも神経が交差するので網の目のようになっているんですが、まさにその通りでした。
関節軟骨は残念ながら時間が経過していたため、実習前に学校で先生から聞いていた、透明あるいは半透明でなく、白くなってしまっていましたが。
あと、その実習では心臓を持たせてもらいました。これが結構、ずっしりとしているんです。
心室や心房なんかも、教科書で見た通りでした。
胃の中からは、亡くなる直前に飲まれたと思われる薬も出てきていましたね。
と、そんな話はさておき・・・ある日私は、学校で自身に鍼を打って回旋の手技を加え、自主練習していたことがありました。
そして抜鍼した際、鍼に細長い白い糸のようなものがくっ付いてきたのです。
それはすぐに切れたのですが、その時に重だるいような痛みが出たので、あれは筋繊維か極細い神経だったのではないかと、今でも思っています。
これは軽度だったようなので簡単に抜鍼できましたが、刺鍼後の手技において何度も同じ方向へ回旋を加えることで、筋組織が鍼に巻きつくことでも抜鍼困難は起こります。
もしも抜鍼困難を起こしてしまったら・・・
まずは落ち着きましょう。
それから患者さんにリラックスすることを促し、そのための環境を整えます。
原因が一方向への回旋ならば、逆方向に回旋させることである程度緩和させることができます。
筋の収縮が原因の場合には、そのまま鍼を放置して、筋肉を十分に弛緩させてから鍼を抜きましょう。
他にも刺鍼部の周囲を示指または鍼管で軽く叩く『副刺激術』や、刺した鍼にもう一度鍼管を被せて示指で叩打する『示指打法』、周囲に新しく鍼を打つ『迎え鍼』などの方法を用いて抜鍼することもできます。
出血・内出血
これは鍼灸では、いくら気をつけていても起きてしまうと言っても過言ではないでしょう。
鍼が毛細血管などを破ってしまい、それによって出血します。
内出血と外出血に分かれますが、内出血の場合は青紫色のあざができます。
これは皆さんも打撲などで経験はあると思いますが、長くても1週間もすれば消えます。
鍼灸で特に気をつけたいのは、顔面部の刺鍼による内出血ですね。
顔面鍼は特に美容のために女性に施すことが多いので、内出血など起こしてしまうと顔にあざを作ってしまうことになるため、下手をすると責任問題に発展することになってしまうでしょう。
原因は?
外出血は皮膚の浅い部分で毛細血管を破ってしまった場合に起こります。
内出血は皮膚や筋肉などの身体内部の組織で、毛細血管を破った場合に起こります。
しかしいずれの原因でも、粗暴な手技などによって発生すると言われます。
何故、破るのが毛細血管だけなのかと思う方もいると思いますので、それについてお答えします。
鍼灸の鍼では通常の血管を破ってしまうことはほとんどの場合ありません。
鍼灸の鍼は細く柔らかいため、仮に血管壁に当たったとしても出血が起こるほどの穴が開かないのです。
また、一般的に鍼灸の鍼は注射針に比べて痛みが少ないと言われます。
この秘密は鍼の先端の形状にあります。注射針の場合は斜めに切られた鋭利な形状になっていますが、鍼灸の鍼は『松葉型』といって、鍼の先のやや上方から細くして少し丸みを帯びさせた形になっています。
この形状のおかげで鍼灸治療の鍼は、注射針よりも刺入時の痛みが軽減されているのです。
予防するには?
これは大前提ですが、出血しやすい部分の刺鍼は慎重に行いましょう。
鍼は細いものを使用すると、出血する可能性が下がります。
また、前後の揉撚をしっかりと行うことも予防策の1つです。
揉撚→刺鍼の前と後に、指頭で刺鍼部位を揉みほぐすこと。基本的に刺鍼時には必ず行われる
もしも内出血や出血を起こしてしまったら・・・
アルコールを含ませた綿花で圧迫し、止血を行います。
出血が多い場合には、感染防止の観点からアルコール綿花を複数枚重ねて使用しましょう。
これは学生時代に先生の1人が言っていましたが、『人間の血液ほど、(人によって)何が入っているかわからなくて恐ろしいものはない』だそうです。後ほどお話ししますが、例えばB肝やHIVなどがあります
内出血の場合には、止血後に後揉撚を行うと吸収が早くなります。
ただし、場合によっては症状を酷くしてしまうことがあるので注意が必要です。
あざは1週間もあれば自然に消えますが、温湿布や周囲への散鍼で血行を良くしておくことによって、あざの消失を促すこともできます。
散鍼→刺鍼する部位の周囲に、繰り返し弾入と切皮をすること
皮膚反応
抜鍼後の皮膚に、発赤や紅斑などが生じることがあります。
原因は?
刺鍼による組織の損傷に伴った局所の炎症反応によることが多く、また、粗暴な手技などで皮下の毛細血管などを刺激してしまい、内出血を起こすことも原因の1つです。他にもアレルギー反応から生じる場合もあります。
予防するには?
後揉撚を十分に行うことや、粗暴な手技を行わないこと、細い鍼を使用するなどすれば予防ができます。
金属アレルギーのある患者さんの場合は、金鍼を使うことも考慮しましょう。
金は人体との親和性が高いので、アレルギー反応が出にくいとされているためです。
もしも皮膚反応が出た場合には?
炎症による場合は、時間の経過と共に消失します。
内出血の場合には、軽く圧迫してあげましょう。
脳貧血
脳貧血は鍼の刺激によって、反射的に脳の小動脈が収縮してしまい、脳に行く血液量が減ってしまうために起こります。
原因と症状は?
座位または立位の時に、精神的な緊張や不安な状態にある患者さんに対して刺鍼した場合と、全身状態の良くない患者さん(不眠や疲労、空腹など)に対して、乱暴な施術を行った時に起こるとされます。
また、鍼の刺激に慣れていない患者さんの場合、刺激量が多すぎる時に起こることもあります。
症状は、顔面蒼白・冷や汗・悪心・嘔吐・血圧低下・一過性の失神などがあります。
予防するには?
座位や立位では脳貧血を起こしやすいので注意しましょう。
鍼が初めての患者さんや、慣れていない患者さんの場合には、細い鍼や軽い刺激に留めて、刺激量を少なくすることを心がけましょう。
また、患者さんに治療に対して十分な説明をして、信頼関係を築き、不安や緊張を和らげるのも効果があります。
もしも脳貧血を起こしてしまったら・・・
まずは落ち着きましょう。
患者さんを仰向けで寝かせ、頭部に血を巡らせるため頭を低くして安静にさせます。
意識が戻ったら(症状が軽くなったら)、温かくして數十分から1時間ほど休憩させましょう。
また、四肢の末端に近い部位に刺鍼して回復させる『返し鍼』という方法もあります。
この時使うツボは、合谷や足三里などです。
遺感覚
刺入時や刺入後・抜鍼後に発生する痛みや違和感のことで、治療後数時間から、時には数日間残ることもあります。
原因は?
どのタイミングで出るかによって、次のように原因が分かれます。
1.刺入時の痛みや違和感
不注意な手技や不良鍼尖、太い鍼を使った場合に起こりやすくなります。
2.刺入後の痛みや違和感
大きい振れ幅の雀啄や強い回旋による筋繊維の巻きつき、置鍼時などに患者さんが体を動かしたことによって鍼が曲がってしまったことによります。
3.抜鍼後の痛みや違和感
過度の刺激を与えた場合に起こりやすいとされます。
予防するには?
刺入技術の熟練は必須で、正しい技術と最適な刺激量の修得に努めましょう。
すぐには難しいのであれば、各種鍼管や押し手など、刺入器具や技術の工夫でカバーすることもできます。
また抜鍼後は、後揉撚をしっかりと行いましょう。
灸治療での過誤と副作用について
続いてはで起こり得る過誤と副作用のお話です。
もしも疲れてしまったら、1度休憩を挟んでから読んでいただいても大丈夫です。
長いので、ご自身のペースで読み進めてください。
化膿
これは主に透熱灸を据えたところが化膿してしまうということです。
正しい施灸方法と消毒操作が行われれば、未然に防げる事故でもあります。
しかし、術後の不潔操作や不注意、患者さんの体質や病気などで化膿することがあります。
原因は?
灸による火傷で水ぶくれができることや、それを破ったり、かさぶたを剥がしたりすることで起こります。
他にも灸治療を終えた後の消毒の不完全、夏に汗をかいた時やお風呂に入った場合などもあります。
また、化膿菌に対する免疫力の低下など、体質的に化膿しやすい人もいるようです。
予防するには?
お灸の壮数を重ねる際に、正しく同一の点に施灸することや、艾シュの大きさは特別な場合以外大きくしないことで予防ができます。
また、お灸の後を引っ掻いたりなどしないよう、患者さんに指示することも必要です。
もしも化膿してしまったら・・・
化膿した箇所のお灸は中止し、十分に消毒乾燥させるようにします。
その後に市販の軟膏薬を塗る施術者もいるようですが、この処置は法的にグレーゾーンのため、避けた方が無難です。
また、化膿の初期には灸痕部の周囲に発赤が見られる場合が多いため、その時は施灸を一時中止するようにしましょう。
灸あたり
お灸をした直後、あるいは翌日から全身の倦怠感や疲労感、脱力感を数時間〜数十時間自覚した後、急速に症状が無くなる現象のことです。
灸あたりが強い場合、これらの症状以外にも、頭重感・めまい・食欲不振・悪寒・発熱・吐き気などを伴い、日常生活にも影響してきます。
原因は?
お灸の壮数が多すぎるなど、刺激量が多いことが1番の理由として挙げられますが、その詳しい発生メカニズムについては不明とされています。
予防するには?
お灸が初めての患者さんや神経質な人、不安や恐怖感を感じている患者さんには刺激量を減らすことで発生の可能性を減らすことができます。
また、お灸をする前に患者さんに対して十分に説明や注意を行い、不安や緊張を和らげるのも手です。
初めて治療を受ける患者さんや、しばらくお灸をしていなかった患者さんには、初めは壮数や艾の大きさを小さくして刺激量を減らして、段階的に増やしていくようにしましょう。
もしも灸あたりを起こしてしまったら・・・
もしも灸あたりが起きてしまった場合には、安静にして横になっているように指示し、少し眠るようにさせます。
また、治療が終わった段階で灸あたりが無くても、家に帰ってから起こす場合もあるので、灸あたりに関する説明と、灸あたりが起こってしまった際の対処法を患者さんに説明しておきましょう。
感染症対策
近年では医療現場において、MRSAなどの薬物耐性菌やB型・C型肝炎ウイルス、HIVなどによる感染事故が問題となっています。
MRSA→メチシリン耐性黄色ブドウ球菌のこと。食中毒や傷口の化膿などを起こす細菌
メチシリン→抗生物質の1種。微生物から作られて、特定の微生物の発育を阻害する。細菌には効くがウイルスには効かない。これは抗生物質の特徴でもある
HIV→ヒト免疫不全ウイルス。発症するとAIDS(後天性免疫不全症候群)を引き起こす
鍼灸でも同様に、患者および術者の感染予防の観点から、安全で衛生的な施術に努めなければなりません。
施術者の手指消毒
施術前には、術者は必ず適切な方法で手指の洗浄と消毒を行います。
手の洗浄方法
- 手指全体を流水で濡らしてから、石鹸またはハンドソープなどを手のひらでよく泡立てる
- 手の甲・指の間・指先・爪・親指・手首までよく擦る
- 流水で丁寧にすすぐ
- 清潔なタオルで水分を拭き取り、乾燥させる
私は専門学校の学生時代も、その後働いた職場でも手洗いの後はペーパータオルを使用していました。この理由は普通のタオルよりもペーパータオルの方が使い捨てで衛生的であり、より良いとされているからです。
手の洗浄は、手指に付着する皮脂や汚れ、雑菌を落とすために行い、手指消毒の効果を高める目的で行います。
手の洗浄に使う薬剤は、殺菌作用を有していて洗浄効果が高く、皮膚や粘膜に対しての刺激が低いものが良いとされています。
市販品でわかりやすいところでいうと、『キレイキレイ』や『ミューズ』などでしょうか。
そして消毒の前にはしっかりと水分を拭き取り、皮膚を乾燥させてください。そうしないと、消毒の効果が低下してしまいます。
手指の消毒方法には2種類あります。
1つは『清拭法(スワブ法)』という、ガーゼなどにアルコールを含ませて拭く方法です。
もう1つは『擦式法(ラビング法)』という、速乾性のエタノールローションを手指に擦り込む方法です。
ラビング法はこのご時世ですから、皆さんも普段からやっていると思います。もちろん私も、外から帰ったらやっていますよ。
実際、こちらの方が簡単にできる上、エタノールに加えて配合されている消毒剤による殺菌効果も期待できるため、より良いとされています。
手指の消毒用薬剤は一般的に、濃度70〜80%の消毒用エタノールや濃度50〜70%のイソプロパノールが用いられます。
今はどこのお店でも消毒薬が店頭に置かれているのを見かけると思いますが、ポンプ式の場合、ノズルを押すときは手の甲で押した方が、手のひらに雑菌やウイルスが付着するのを防ぐことができるのでオススメです。鍼灸学校時代に習った方法ですが、習慣化してしまったので、私は今でもやっています
患者皮膚の消毒法
患者さんの皮膚は当たり前ですが洗浄はできないので、皮脂や汚れがある程度存在することを前提として『スワブ法』を行います。
施術する部位に対して、広範囲に、エタノールなどの消毒薬を染み込ませた綿花で拭き取り、皮膚に消毒薬が一定時間接触している状態を作ります。
また時間が経つとその分、雑菌や衣服との接触による菌の付着が起こるので、消毒は施術の直前に行うようにしましょう。
患者さんの皮膚を拭き取る方法には2つあります。
1つは左から右へ、一方向に下方へ少しずつずらしながら拭く『一方向性』。
1つは施術部の中心から渦巻き状に少しずつ外側へ回転させながら拭く『遠心性渦巻き』があります。
これは好みですね。私は一方向性で消毒しています。
器具の消毒と保管
感染予防の観点から、滅菌されていない鍼は生体に使用してはならないとされています。
市販のディスポーザブル鍼はEOG滅菌済みですので、すぐに使用することができますが、一般の鍼は滅菌されていないため、予め滅菌をしておく必要があります。
EOG→エチレンオキサイドガスの頭文字を取ったもの。ほぼ全ての生物を死滅させられると言われるガス。人間や動物にも有害
医療で使用する機器には、滅菌の必要なもの・消毒の必要なもの・洗浄だけでよいものなど、様々なレベルがあります。
ですので、使用目的に応じた適切なレベルの操作をしなくてはなりません。
滅菌法の中でも、高圧蒸気滅菌法は滅菌効果が高く、短時間で行えるうえ、有害な廃棄物を出さず、ランニングコストが低いなどの理由から、医療機関で現在最も普及している方法です。
この滅菌法は、洗浄した器具を滅菌バッグに入れてシールし、オートクレーブと呼ばれる高圧蒸気滅菌器に入れた上で、指定の基準で行います。
私も学生時代に、この装置でステンレス鍼皿などの滅菌を当番制で行いました。
基準は日本薬局方準拠として、115℃で30分(1.7 bar)、121℃で20分(2.1 bar)、126℃で15分(2.4 bar)となっています。
温度・時間・圧力(bar)を基準通りにしないと滅菌が達成できない方法で、対象とできるのは水分や熱、圧力に強いものに限られます。
また当然ですが、滅菌が終わったばかりの器具はめちゃくちゃ熱いです。火傷に気をつけてください。
鍼の滅菌に関しては、私の場合は学生時代ですが、先生方が週末にEOGによる滅菌を行ってくれました。
その日だけは、実習室での自主練時間にも制限がありましたね。
器具の保管には、滅菌バッグは水分を通すので、水がかかったり、湿気の多い場所に置いてしまうと器具が汚染する可能性があります。
ですので清潔で乾燥した棚に保管します。
長期間使用しない場合には、滅菌した日付を滅菌バッグに記入しておきましょう。
他に、滅菌レベルの消毒を必要としない金属やガラス器具は、消毒後に紫外線消毒器に保管します。
肝炎・HIVの基礎知識と鍼灸での施術上の注意点
B型肝炎・C型肝炎・HIVの一般的な感染経路は、血液や体液を介した濃厚接触とされます。
握手や入浴、食事など日常的な接触では感染はしません。
医療現場では、医療スタッフの注射針の誤刺による感染が最も多いとされています。
患者さんがもしもウイルスキャリア(ウイルス保持者)の場合、1回の誤刺でB肝では20〜30%、C肝では2〜3%、HIVでは0.2〜0.3%の確率で感染すると言われています。
鍼灸施術上では、使用後の鍼の扱いをことさらに慎重に行わなければなりません。
免疫機能低下による易感染者への対策
高齢者や糖尿病患者、癌患者、手術後などは免疫力が低下している場合が多いため、日和見感染など様々な感染症に罹りやすくなっています。
日和見感染→免疫力の低下で、通常ならば罹らない感染症に罹ってしまうこと
鍼灸の場合、器具などが十分滅菌されていても、術者が不衛生な操作を行ってしまうと、施術部の化膿やその他の感染症を引き起こす場合があるので、安全で衛生的な操作に努めなくてはいけません。
最後に
これで鍼灸のリスク管理の話を終了とさせていただきます。
今回話した内容は大切な部分ですので、これから鍼灸師を目指されるという方には特にしっかりと理解しておいてほしいと思います。
それではまた次回、お会いしましょう!
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