今回は東洋医学の診察法について、『四診法』から望診にフォーカスを当てて、臨床で診るべきポイントを具体的に解説していきます!
そもそも『望診』って?
望診は病人の顔色や形態の変化からその内部変化を観察し、疾病の性質やその予後までを判定する診察法のことです。
つまり、病人の『神気の有無』を察知することで、病人の顔色・光沢(ツヤ)・表情・目つき・姿勢・動作などから神気の得失を知り、神気があれば病状が重くても回復に向かい、なければ軽く見えても悪化すると考えます。
顔色で健康状態を判断するのは特に訓練していなくても、皆さんも普段、普通に行なっていることと思いますが、より熟練すれば診断の能力を高めることができます。
神気
臓腑や経絡を機能させている気血営衛の盛衰は、皮膚の色・光沢に現れます。気血旺盛であれば皮膚の色は潤沢で艶があり、衰えれば色艶も衰えます。
皮膚の色艶が良いということは、気血が充実していて神気があり、治療効果も良く、予後も良好と言えます。一方で色艶が悪い場合は気血不十分で神気がなく、治療も長引いてしまい、場合によっては治らないことさえあります。
色を診る(五色)
疾病の変化が病人の色艶に現れるとはいえ、その色は病人によって異なっています。皮膚の色(顔色)が『五色』の1つに偏っているときは陰陽五行論に基づいて、その色の臓が病んでいると診断します。
参考:五色と色合いの臨床所見について
予後良所見
・翠羽の青→緑色をした鳥、または翡翠の羽のような色
・鶏冠の赤→鶏のトサカのような色
・蟹腹の黄→蟹の腹のような色
・豚脂の白→豚肉の脂のような色
・烏羽の黒→カラスの羽のような色
予後不良所見補足
・草滋の青→生い茂った草のような色
・瘀血の赤→紫がかったような赤で、いわゆる血色の良くない色のイメージ
・枳実の黄→夏みかんの未熟な果実のような色
・枯骨の白→朽ち果てた骨のような色
・すすの黒→黄色みを帯びた薄黒い色。
健康な人の皮膚の色は、季節に応じた色調があり(春はやや青・蒼色、夏はやや赤)、その上に白絹で朱を包んだ時のようなほんのり赤みがかった艶があるとされています。
形体を診る
五臓の大小や微妙な位置の違い・強弱、六腑の大小・長短・結直・緩急などによって起こりやすい病状と、その見分け方があります。五臓六腑の形態診断は西洋医学の解剖学に拠らない独特の診察の仕方になります。
その他、外から見られる体の諸器官に異常があれば、関連する臓器にも異常があると考えます。これらの時に基本となるものは『五主』や『五官』です。
五主は通常、機能面から診断しますが、望診でも骨の太い・細いや大小で腎の盛衰を診ることができ、皮膚のキメや厚い薄いは肺の性質に関連するといったように診断します。
五官も一般的には機能面から診断しますが、その形状によって関連する臓の機能の状態を診ることができます。
参考:五主と五官
五臓 五主 五官
肝 筋 眼
心 血脈 舌
脾 肌肉 口唇
肺 皮毛 鼻
腎 骨 耳・二陰
動態を診る
病人の姿勢や動作が普通でない場合、どこかが病んでいると診断します。
例えば腰や膝の曲げ伸ばしが辛そうにしている、などです。
中でも特異な動作や姿勢があれば、かなり重篤な状態と診ることができます。
また、人体の気血の盛衰・肉体そのものの強さ・脆弱さが相応のものかどうかで、病んでいるかどうか(病がこじれていないかどうか)を診ます。
皮膚の色の変化を診る
皮膚の色(特に顔色)が『五色』の1つに偏っている時には、その関連する臓が病んでいると診ることができます。
また、顔や病所などの皮膚の色が五色のうちのどれに偏るかでも病状を判定できます。
参考1:色の変化と病状
色の変化 病状
青 痛
黒 痺
黄赤 熱
白 寒
参考2:『痛』と『痺』の病状について
1.『痛』
→頭痛・胸痛・脇痛・胃痛・腹痛・腰痛などがあり、寒気が脈中に入って気が通じないために起こる
2.『痺』
→風湿寒の3つの邪気が交じって人体に侵入し、営衛の気の循環が悪くなって発生する病。主な症状は痛みと痺れで、どの邪気が強いかで次のように分類される
・行痺(風痺)→風邪が強い。痛みが遊走する
・痛痺(寒痺)→寒邪が強い。激しい痛み
・着痺(湿痺)→湿邪が強い。痛む箇所は一定で、長引く
経脈流注上の変化を診る
皮膚を注意深く診ると、特定の経脈流注上に種々の変化が現れていることがわかります。
シミやソバカス・イボなどは経穴の変化の一形態としてみることもでき、皮膚のキメの状態・肌肉の栄養不良なども部分的に現れることがあり、これらは経脈の営衛の虚実と診ます。
顔面の部分診
東洋医学では顔面の各部に五臓の盛衰が反映すると考えられています。
顔面診は顔面各部に五臓を配当し、それらの部位に現れる変化(発赤・汗・吹き出物など)から臓腑・器官の病変を推察し診断します。
参考:顔面部の五臓の配当
左頬→『肝』
右頬→『肺』
鼻→『脾』
額→『心』
顎→『腎』
舌を診る
舌診は診断における重要な決め手の1つで、湯液治療家を中心に発展したとされています。舌の状態の変化は客観的に人体の気血の盛衰・病邪の性質・病位の深さ・病状の進展状況を反映します。
一般的に言うと、内臓の虚実を診る時には舌の質の観察に重点が置かれ、病邪の深さと胃の気の存亡を診る時には舌苔の観察に重点が置かれます。
舌診では舌体の形態・舌質の色と性質・舌苔などを観察します。そのためには健康な状態の舌を知っている必要があるので、以下に参考として載せておきます。
参考:正常な舌の状態と五臓の配当
・舌体の形態
→萎縮・腫脹・強張り・歪みがなく、裂紋や点刺(ブツブツ)もないなど、特別な形態変化が見られない
・舌質の色
→淡紅色で、気血が適切に舌を巡っていることを示す
・舌苔色と性質
→舌の中心部に薄い白苔があり、適度に潤っている
・五臓配当の参考図
舌の先端(図の赤)→『心(肺)』
舌の中心部(図の黄)→『脾胃』
舌の両脇(図の青)→『肝胆』
舌根部(図の黒)→『腎』
舌体の形質と舌質の色は臓腑の精気の盛衰を診察し、疾病の予後を判断するのに重要な意義を持ちます。
また舌苔では、その色・厚さ・苔質を観察します。
舌苔の色と病邪の性質との間には密接な関係があり、舌苔の厚さは病邪の程度や病状の進退を判断するのに重要な意義を持っています。
舌体の形態について
・胖舌→舌が腫れて大きい。陽虚やむくみなどで見られる
・痩舌→舌が痩せて小さく薄い。気血両虚や陰虚などで見られる
・歯痕舌→舌のふちに歯の痕がある。気虚や脾虚などで見られる
・裂紋舌→舌体の表面に亀裂がある。陰虚や血虚などで見られる
・芒刺舌→舌にトゲ状の隆起がある。熱邪や臓腑の熱の際に見られる
・顫動舌→舌が震えて止まらない。気血両虚や陽虚などで見られる
・軟舌→舌が軟弱で、伸縮無力。気血両虚、陰虚などで見られる
・硬舌→舌が強直し、舌運動が円滑にできない。中風(脳卒中)の前兆、高熱や痰濁などで見られる
・歪斜舌→舌を伸ばすと舌体が歪む。中風やその前兆の時に見られる
舌質の色について
・淡紅舌→正常な血色。正常、表証、軽い熱証などで見られる
・淡舌(浅紅色)→正常な舌色よりも淡白な色。陽虚や血虚、寒証などで見られる
・紅舌(鮮紅色)→正常な舌よりも赤い色。実熱や陰虚の虚熱などで見られる
・舌→舌の色が深紅の色。熱極や陰虚による虚火がおきた時に見られる
・紫舌→舌が青紫色。血瘀や熱毒、寒証などで見られる
舌苔の色と厚さと質について
色
・白苔→白い苔。正常、表証、寒証などで見られる
・黄苔→黄色い苔。熱証では典型的で、他に裏証などで見られるが、カレーを食べたりコーヒーを飲んだ時にも舌苔が黄色くなることがあるので、診察の際は患者さんに聞くなど、注意する
・灰苔→浅黒色の苔。裏熱証や寒湿証などで見られる
・黒苔→黒または焦げた苔。裏証や熱極、寒証などで見られる
厚さと質
薄い舌苔を透かして舌体が見えることを『見底』できるといい、舌苔は見底できるものを薄苔といい、できないものを厚苔という。
薄苔から厚苔に変化するのは、病邪が表から裏へ入り、病状が進行していることを示す。その逆の場合は、病邪が裏から表へ出てきて病状が良くなっていることを示す。
・薄苔→苔が薄く、見底できる。正常、表証、虚証、邪気が弱いときなどに見られる
・厚苔→苔が厚く、見底できない。裏証、実証、邪気が強いときなどに見られる
・燥苔→苔が乾いている。津液・陰液の損傷や燥邪の際に見られる
・潤苔→苔に潤いがある。正常または津液の未損傷や湿邪の際に見られる
・滑苔→苔の水分過多。水湿が停滞したときに見られる
・膩苔→苔がねっとりとし、剥離しにくい。痰飲や痰濁などで見られる
・腐苔→苔がおから状で剥離しやすい。食積や痰濁で見られる
・剥落苔→苔の一部または全てが剥落している。気陰両虚で見られる。なお、一部が剥落したものを地図舌、全部が剥落したものを鏡面舌と呼ぶこともある
おつかれさまでした
以上で望診に関しての解説は終了となります。
これを参考に、自分の舌の状態など観察してみてはいかがでしょうか?
それではまた次回、お会いしましょう!
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