四診法の切診の腹診のやり方 切経のやり方と臨床で注意するべき症状

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 今回で四診法については最終回となります。最後は切診の腹診のやり方&切経のやり方、それぞれの診るべきポイントを具体的に解説します。

前回はこちら↓

腹診って?

 腹診は臓腑の病変を探る切診のことで、病人の足を伸ばして仰臥(仰向け)させ、術者の手掌や指腹を用いて胸腹部の皮膚や皮下組織を軽く触れ、時には強く按じ、皮膚の温度や湿り気、潤い、ザラザラ感や圧痛、硬結、筋の緊張、動悸などを診る診断法です。腹診は湯液(漢方薬)の分野で重視され、発展してきました。

 鍼灸分野では臓腑経絡の異常を基本的に脈診で診るため比較的軽視される傾向にありましたが、昨今では鍼灸分野でも腹診と脈診を合わせて臨床で応用するようになっています。

 

健康人の腹

 健康な人のお腹は全体が温かく、適度に潤いがあり、硬くも軟らかくもなく、つきたての餅のようであり、上腹部は平らで、臍から下がふっくらとして手応えがあるのが良いとされています。

 

腹診の際の腹部の五臓配当

 腹部も、顔と同じく五臓ごとに配当される箇所は決まっています。

 左が肝、右が肺、中央(臍の周囲)が脾、臍より上が心、臍より下が腎、となります。

 

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湯液の腹診

 湯液の治療では腹診を重視しているというのは最初に述べましたが、特に江戸時代の古方派によって発展させられたと言われています。その代表的なものを以下に記します。

心下痞鞭しんかひこう

 心下部(みぞおち)が自覚的につかえることを『心下痞』といい、他覚的に硬く抵抗感のあるものを『心下硬』という。ともに存在するのが、『心下痞硬』。

 また『心下痞満』は心下部が自覚的につかえて張った感じのするもので、『心下軟』は心下部が無力の状態をいう。『結胸』は心下部が硬く圧痛のあるもの。鍼灸では心や心包の病変が多い

 

胸脇苦満きょうきょうくまん

 季肋部の下に充満感があって、肋骨弓の下縁に指を入れようとしても苦満感・圧痛があるため入らないもの。鍼灸では肝・胆の病変が多い

 

小腹不仁

 小腹は下腹部のことで、臍下ともいう。下腹部が力無くフワフワして、知覚鈍麻(感覚が鈍い状態)があるもの。鍼灸では腎の病変が多い

 

小腹急結

 下腹部、特に左下腹部(少腹部)に抵抗や硬結があるもので、オ血の腹証とされる。鍼灸では腎・肝・脾の病変で多いとされ、中でもと関係が深い

 

裏急りきゅう

 腹裏が引き攣れる(多くは腹直筋の異常なつっぱりをいう)ことをいい、虚労(過労などによる身体的・精神的衰弱などが原因で起こる症状)の際などにみられ、鍼灸では肝・脾・腎の病変が多いとされ、中でもと関係が深い

 

虚里きょこ(り)の動

 虚里とは胃の大絡の別名で、胃から出て膈(横隔膜)を上り、左乳下に分布する絡脈のこと。脾の大絡などとは違って絡穴から出ない絡脈。この症状は左乳下の動悸のことを指していて、心尖拍動を指している

 

腹診のやり方

 臨床で腹診をする時には、ベッドに仰向けに寝てもらってお腹を出してもらいます。

 この時、寒くないようにお腹以外の部分にはタオルケットなどをかけてあげましょう。

 左手で患者の上腹部を、右手で患者の下腹部をそれぞれ五臓配当に従って押して、患者の反応を診ます。この時に第1とされる情報は、患者の自覚痛と圧痛

 順にすると、自覚痛→圧痛→圧迫感→不快感と並びます。時にくすぐったいなどの反応が出ることもありますが、これは『虚』とみて、体が弱ってきていると判断します。

 これらの情報を総合して、証の決定に役立てましょう。

 それから治療の際の鉄則とも言えますが・・・患者に触れる際は、手を温かくして臨んでください

 これは冷たい手で触れてしまうと患者が驚いてしまい、正しい情報が得られなくなる可能性があるためです。

 

 余談ですが私は学生時代(今もですが)、温かくていい手をしていると先生から褒められ、パン職人にも向いてる手だとも言われました。

 ただ、冬場の朝は冷えていることが多かったので、朝から実習が行われる日にはお湯で手を洗って温めていました。

 

 ところで手が温かい人は心が冷たいと、よく言われますよね。

 私自身はそんなつもりはないのですが・・・。周りはどう思っていたのか、少し気になりますね。

 

切経って?

 切経は経絡を切診することで、経絡に沿って指頭か指腹を使って軽く擦過し、時に少し力を加えて按圧して皮膚や筋肉の状態を触覚で探り、臓腑経絡の特に異常のある経絡を診断する方法です。

 切経は異常のある経絡の反応点を見つけ出せるため、治療点や治療穴の発見や選定ができるという点に特徴があります。

切経の部位は一般的に、肘関節よりも下の前腕部や膝間接よりも下の下腿部を対象としていて、全身では行いません(ただし背部など、重要な要穴のある部分は除く)。

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代表的な切経の診察法と所見

・撮診(擦診)

 母子頭と示指頭で経絡上の皮膚をつまんで、痛みの過敏性や抵抗の有無を探るものをいい、痛みや強い抵抗、くすぐったさなどを感じる経絡には何かしらの異常があると判断します。

 

・背診

 背部は内臓の病変が現れやすいところとされています。

 背診では皮膚の状態、筋肉の緊張・隆起、陥下・硬結などの有無と、望診によって皮膚の色やツヤ、産毛、黒子ほくろの状態までも診て、異常のある臓腑経絡、特に臓腑の変調を診断します。

 

・圧痛

 皮膚や筋肉を押圧したとき、激しい痛みを訴えたり、逃避行動をとるような場合の点を圧痛点といい、この圧痛点を経穴の異常変化として捉え、診断の根拠としたり治療点としても考慮します。

 押圧によって痛みだけでなく、知覚が比較的鈍くなっていたり心地よかったりする場合がありますが、これらも圧痛点と同様に考えます。

 通常、押して痛みが増す場合には実、心地よい場合には虚として診ますが、これは腹診の際も同じです。

 

・硬結

 硬結も経穴の異常変化として捉えます。

 皮下もしくは筋肉内に、指で押すとコリコリした塊のようなものに触れることがあります。

 小豆大のものから線状、棒状のものなど様々ですが、多くは圧痛を伴っています

 これはご家庭で家族に背中のマッサージなどしたことのある方ならわかるかもしれませんが、実際に触ってみると、感覚がわかります。慣れるとすぐに見つけられますよ。

大体は痛みを伴いますが、ほぐれると気持ちがいいと感じられます。

また硬結は、筋肉の緊張のような広範囲に一斉に出るものではなく、ある一部に限定、といったようにして出てきます。

 

・陥下

 経脈上で、押すと力無く落ち込むところがありますが、これを陥下といいます。

 虚の状態を表していて、臓腑経絡の診断上の根拠とします。

 治療では陥下している箇所には灸を施すことが多いです(『陥下なれば之に灸す』という、鍼灸古典の言葉もある)。

 

・細絡

 皮下静脈が膨れたもの、あるいは細静脈がボーフラ状に変化したもので、静脈の鬱滞による色調の変化は、血絡またはオ血として刺鍼や刺絡での治療対象となり、経絡上にある場合は診断の材料となります。

 これは現代や西洋医学の例でいうと、膝裏などにできる静脈瘤などが適当かと思います。

 

おつかれさまでした

 以上で四診法についての解説は全て終了とさせていただきます。

 それではまた次回、お会いしましょう!

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